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◇◆ 彼が盗んだもの HATTARI RED ◇◆
 昼休みのど真ん中、眉毛を顰め、シブさの骨頂を見せ付ける次元が切り出した。
「いいかお前ら、よく聞け……世の中にはな、ハーゲンコたるものが存在するんだ」
 一体それは何者なんだと言いかけたところで、やっぱりそっち側から攻めてきたゴエモンの合いの手が入る。
「なんか、聞いただけでうまそーだな」
「石川くん、これはダッツとは無縁かと……」
 そこで、ワトソンのツッコミを聞いた次元が、いきり立ってこう叫ぶ。
「馬鹿にするな! ハーゲンコは、キャラメルリボンとは違うっ!」
 じ、次元、それはサーティーワ……(確かに違うよね!)

 気を取り直した次元が俺の肩を抱きながら、空いた片方の手でジェスチャーを交えて囁きはじめる。
「あのな、拳を握り締めたとき、こう、ハァーっと息を吹きかけるだろ?」
「あぁ、拳に炭素菌を吹きかけるやつだな?」
「まぁ、そんな感じだ」
 どんな感じなのか、なんとなく理解したところで、キーキーうるさいワトソンの喚きツッコミが繰り広げられた。
「嘘を吐かないでください! 炭素菌って、それじゃ第一級テロですよ!」
「じゃあ、一酸化炭素菌?」
「それじゃ、中毒を起こします!」
「まぁよ、どっちでもいい感じだから、気にするな」

 そんな俺たちのやりとりに、チョコ切れで苛々しはじめたゴエモンが、もう限界だと発狂する。
「だから、何なんだよ!」
 そこでまた、ゴエモンの発狂に誘発されたように次元がいきり立つ。
「ばっ! それが、ハーゲンコだっちゅーの!」
 ということで、次元を抜かす俺たち三人の、歪みに歪んだ三重奏が響き渡った。
「はあぁ?」

「くだらねー!」
 ハーゲンコの正体が、ハァーっと息を吹きかけたゲンコツのことだと悟り、やってられないとばかりに、ゴエモンがチョコを求めて席を立つけれど、そんなゴエモンの襟首を捕まえた次元がさらに怒鳴る。
「ばっ! ハーゲンコをなめんなよ? ハァーするだけで、痛さ倍増だぞ?」
 ま、まぁ、三倍くらいにはなるかもね……
「あ、もしかしたら体から吐き出された二酸化炭素が、化学反応を起こすんじゃないでしょうか?」
 ワトソン、それだけは絶対に違うかと……

 ところがそこで、なぜか妙な悟りを開いた次元が、一週間くらい先を見ながら話を戻す。
「俺はよぉ、その真髄を知ったんだ」
 ハーゲンコに真髄などあるのかと思いつつ、そう言われると聞き逃せない。
 だから三人三様に、変な角度で顔を傾けながら、ついでに耳も傾けた。
「ある日俺は、ハーゲンコゆえの、定義と法則があることに気がついた……」
「ベ、ベクトル解析ですか!」
「しっ! いいから黙って聞けよ!」
 たまらず声を上げたワトソンの口を塞ぎ、台詞の続きを促せば、一度だけ強く肯いた次元が言葉を続ける。
「この世で最も偉大なベールが拳を包むんだ。そう、そのベールの名は……」
「そ、その名は……?」
 ゴクっと唾を飲み込んだゴエモンが、ゆっくりと復唱中。
 そしてついに、険しい表情を浮かべた次元が、ジっちゃんの名にかけてなポーズでビシっと言った!

「ハッタリだ!」

 その事実に驚愕反応を起こしたゴエモンが、指を組んで震えながら言い放つ。
「ハーゲンコは忍術だったのかっ!」
「石川くん、それはハットリくんです!」
「チクワブ チクワブ チクワブ……」
「ルパンくんも、それを言うなら南無阿弥陀仏でしょ! それじゃシシマルです!」
 シシマルは、チクワであってチクワブじゃないぞ!(逆ギレです)

 そんなフジコフジオワールドに、花が咲きそうな雰囲気を壊す次元の怒鳴り声。
「てか、お前ら聞けっ! よく拳の関節をバキバキ鳴らすだろ?」
「あ、そういえば、マンガや映画の乱闘シーンでは必ずやりますよね」
 そこで、人差し指をワトソンへ突きたてる次元が、キッパリと断言する。
「そう、あれもハッタリだ」
 そ、そうだったのか……(妙に納得)

「じゃ、じゃあさ、顎を持ち上げるとか、下目使いとかもハッタリ?」
 ゴエモンがそう質問したところで、なぜか両腕をグルングルン回す次元がそれに答えた。
「そうだ、よく気がついたな。さらに、こう腕を回すのでさえハッタリだ」
 そ、それまでもハッタリ一族だったのか……(やっぱり、なんとなく納得)

「なんかよ、ハッタリって最強じゃね?」
「そう、ハッタリは最強だ!」
「ハッタリさえ習得すれば、全てに勝てそうな気さえしますね」
「そう、ハッタリさえモノにすれば、お前はWINNERだ!」
 ノ、ノリに乗ってるね次元くん……(重みがあるよ)

「ということでだ、これから俺を、ハッタリブルーと呼んでくれ」
 どうしてそこに辿り付いたのか分からぬまま、そのノリに便乗したゴエモンが喚きだす。
「ずるいぞ次元! だったら俺は、ハッタリレッドだ!」
「ばっ! お前はどこをどう見ても、ハッタリイエローだろうがっ!」
「なんでだよっ!」
 だから、遅れをとっちゃならぬとばかりに俺も切り出した。
「仕方がない、ここはひとつ、この俺がレッドになってやろうではないか」
「え、じゃ、じゃあ僕は……」
 そんな戸惑うワトソンに向かって、振り向きざまの模範解答が連唱された――

「ピンク?」
「ピンク?」
「ピンク?」

「嫌ですよ! なんで僕だけ、女役なんですか!」
 歯茎が見えそうなほど歯を食いしばるワトソンが、青筋を立てて文句を言い放つ。
 だから仕方なく、またまた繰り返される素敵な連唱。

「じゃ、グリーン?」
「じゃ、グリーン?」
「チャーミーグリーン?」
 ゴ、ゴエちゃん、それはちょっと……(趣旨が違います)

 結局、なんだかんだとモメにモメ、ようやく配色が決まったところに、 ブロッコリーだけが入った弁当箱を振り回しながら、ラブリー文子が現れ言い出した。
「ルパーン、これおいしくないから、いらないんだけどさ?」
「あ、どれ? 俺が食べる食べるぅ……」
 首を可愛らしく傾けて、いつもの調子で手を伸ばした瞬間、背中に走るイタイ視線。
 ギギっと音を立てちゃった感じで振り返れば、顎を持ち上げ下目使いを繰り広げる我が一味。

 ま、まさか、このおいしい場面にハッタリを使用しろと?
 それはいくらなんでも俺には出来ない。いやでも、俺にはレッドという宿命が……

「ワ、ワンパクでもいい。ブロッコリーを食べて、大きくなれよ」

 涙を堪えながら腕を組み、顎を持ち上げながらそう言えば、史上最強のハッタリ具合をかまし出す文子が、鋭い台詞を投げつけた。
「あっそっ!」
 ふ、文子待って。これには深い訳が……(だってレッドなんだもん)

「おぉーっ!」
 愕然とうな垂れたところで、一味の指笛と歓声が響き渡り、ワトソンが握手を求めて走り寄ってくる。
「見事なまでのハッタリでした。いやもう、感無量です!」
 そしてワトソンの手をガシっと握ったところで、今度はゴエモンが片手を差し出してきた。
「すげぇよルパン! あ、いや、レッド!」
「ま、まあな?」

 ところがそんなゴエモンに、中島の容赦ないスペクタクルな台詞が投げかけられた。
「ゴエゴエ! チョコチップクッキーが、なくなっちゃうよ?」
「ふざけんなよ! 誰が俺のクッキー食ってんだ……」
 そこまで言いかけたゴエモンの耳にも、次元の指関節パキパキパッキンが聴こえたらしい。
 だからワナワナと震えながらも、ゴエモンが尊大に言い放つ。
「そんなもの、お、お前らにくれてやるよっ!」
 そこでやっぱり、恒例の? (さぁ、ご一緒に!)
「おぉーっ!」

 数分前の俺同様、ガックリとうな垂れるゴエモンに、今度は俺が握手を求めてやった。
「さすがはイエローだ!」
「な、なんか二キロくらい痩せた気がするぜ……」
「百八煩悩を吹っ切りましたね! お見事でした!」
 ワトソン、それってなんだか……(TVチャンピオン?)

 ここまでくると、当然魔女か悪魔が現れて、残る二人に試練を与えるはずだ。
 な〜んて考えていたら、本当に来ちゃいましたよ、悪魔がね。
「ワトソン、悪いんだけど、今日の日直を代わって貰えない?」
「なぜ僕が、代わらねばならないんだよ?」
「え? あ、ごめん、嫌ならいいんだけど……」
 姉さん、あんたやっぱりフミフミ病だね……(ちょっと同情)

 そんなワトソンを、応援するどころかイチャモンをつける三人組……
「ちょっとぉ、あれって顎を上げてるんじゃなくて、見上げてるだけじゃない?」
「あらヤダ奥さん、あの下目使いじゃ、凝視している箇所は確実に胸よ!」
「あらほんと。いやだわ奥さん、あれじゃただのエロじゃないの」
 わ、若狭史彦の、エロん坊万歳!(byキッコーマン)

               ◆◇◆◇◆◇◆

 こうして、地球の平和を守るハッタリレッドとしての活動に勤しんだ俺は、その活躍にも関わらず、文子に睨まれるという最悪な結果を迎えることなり、当然の如く、帰り道でも傍に寄るなと脅された。
 けれど、もう地球の平和など、どうでもいいと投げやりになったところで、おかしな光景を目にすることとなる。

「えっと、そこで何をやっているのかな?」
 文子の周りを取り囲む、ガラの悪そうな男子諸君に向かって声を発すれば
「なんだテメーわっ!」
 確実に、送り仮名を間違えているだろう発音で、男子諸君に言い返された。
「俺? 俺は、地球防衛戦隊ハッタリレッド?」
 だからハッタリレッドの正式名称を、分かりやすく告げてみたのに、真っ赤になった男子が喚く。
「ふ、ふざけんな、てめぇー!」

 ていうかぁ、今気付いたけど、一日中顎を持ち上げすぎて首が痛い。(肩凝り?)
 とりあえず、首を回して凝りをほぐすべし。(ボキボキっとね)
 ついでに、肩も回しておくかな?(あぁ極楽)
 って、あれ? なんでみんなが遠くにいるの?(近視かな?)
「お、覚えてろっ!」
 え? あ? お? うぃ? (ムッシュー?)

 なぜか転びそうになりながら、慌てて逃げ出す男子の背中を唖然として見つめていれば、俺の制服を引っ張る文子がボソボソと言い出した。
「あ、ありがと、ルパン……」
 なんだかよく分からないけれど、文子がお礼を言うのだから便乗しよう。
「じゃ、じゃあ、キスして?」
 当然、下段蹴りがくると思って受身姿勢をとれば、下唇を噛んで恥ずかしそうに俯く文子がつぶやいた。
「お、おうちに帰ってからね……」
「えぇ?」

 なぜこのような、刺激的な結果になったのかしら?(さぁサッパリ?)
 も、もしかして、これが偉大なる炭素ベール?(そうに違いない!)
 無意識下で、ハッタリレッドに変身してたの俺?(すげぇな俺)
 今、分かったよ。ハッタリくん、君は最高にして最強だ!(ニンニン)
「ヤッホーッ!」



 〜その頃の言い出しっぺ次元〜

「次元くん、一緒に帰るのだ♪」
「悪いが、それはできないな」
「その首は、なんなのだ? ムチウチ?」
「無理といったら無理!」
「……呪うぞゴラ?」

 こうして彼は、魔女と呪いにハッタリは通用しないという、新たな法則を見つけたのだった……
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photo by ©かぼんや