触れていたい 「コバセン」 「んー?」 「好き」 どんがらがっしゃーんっ!! ふいに植木の落とした爆弾発言に、動揺を見事に体で表した小林は倒れた机と散らばった 書類の中で埋もれながら呻いた。 「な、な、な、お」 「奈々?奈緒?」 「違う!!お前にはTPOとかいうもんがないのか!!」 「それ、コバセンにだけは言われたくないぞ」 「うるせぇっ!」 ひとしきり叫んだ後に、思い切り息を吸い込んで呼吸を落ちつける。 起き上がったその手で煙草を探り、今だ動揺を隠しきれていない震える指でなんとか火を 点けてそれを吸い込んだ。 肺いっぱいに煙が充満して、やっと落ち着いた呼吸と共に吐き出した。 その様子を、植木は肺ガンの心配をしながら眺めていた。 「あ、神候補だから病気とかしないのか?」 「何なんだそれは・・・」 話の全く繋がらない植木に呆れながら、話を元に戻す。 「で、何がどうなってお前の思考回路は“好き”なんて単語を吐き出したんだ?」 小林にはそれが植木の真摯な告白だとは思えなかったらしい。 その言葉の真意を探る。 しかし植木にしてみれば、それはただの感情の吐露であり、そこに明確な理由はなかっ た。 「別に・・・何か気に食わなかったのか?」 気に食う食わないの問題ではないことに植木は気がつかないらしい。 ここが学校で、まだ生徒の大半がここに留まっている時間だということも、植木にとって は何ら関係ないようだ。 小林は一つため息をつく。 そのため息には諦めの意味が含まれていたのだが、いまいち察しきれていない植木には、 不満の表れだとしか思えなかった。 不満の出所を考える。 「・・・わかった!」 閃いた!というようにパァっと顔を輝かせる植木。 そしてその笑顔のまま、植木は小林に言った。 「愛してる!」 どんがらがっしゃん、ガンッゴンッ 先程よりも激しくもんどりうった小林は、今度は肘を押さえながらわなわなと立ち上が り、一言植木に訴えた。 「オレにはお前の考えがさっぱりわからんっ!!」 「・・・悪ぃ」 勢い謝る植木だが、小林の言った意味は全く理解していない。 小林は半分涙目になり、許しを乞うように植木の肩に縋った。 「頼むからもっとわかりやすい言動をしてくれ・・・」 そうか、わかりにくかったのか、と植木は曲がった解釈をする。 そして考えた末に一番わかりやすい行動として思いついたのがこれであった。 ちゅっ 音を立てて、小林の口唇にキスをする。 足りない身長を背伸びでカバーして奉仕する姿は理性を吹き飛ばすには充分な威力があっ たが、小林はそこをぐっと堪える。 ここは学校、俺は教師・・・とぶつぶつ唱えながら気を落ちつける小林。 「大丈夫か?コバセン」 誰のせいで大丈夫じゃなくなっていると思っているのか!!と叫びたくなる気持ちを必死 で抑えた。 大きく深呼吸をし、それでも落ちつかない肌を静めるために、小林は一度だけ植木に口付 けた。 「っ・・・ん」 先に進みたくなる気持ちも充分にあったが、まだ放課後でもないのにここでそんなことを するわけにもいかないだろうと身を引く。 ふいに植木はそんな小林を思わぬ強い力で引き止めた。 「あ・・・」 植木自身、戸惑う。 そんな植木の様子を見て、何故だか納得がいった。 「何だ植木、もっとして欲しいのか?」 いじわるにも、そう尋ねてみる。 意外にも植木からは素直な返事が帰ってきた。 「ん・・・もっと、して欲しい・・・」 俯きながらこくりと頷く。 そんなに寂しい想いをさせていたのかと、小林は内心苦笑した。 「じゃあお望み通りに」 小林は植木の背を抱いて、先程よりも深く口付けた。 植木の口から艶のある声が漏れる。 一瞬、外に聞こえてしまわないだろうかと懸念が過ぎるが、目の前の植木を慰めるためな らばどうでもいいか、と思えた。 「っは・・・っ」 口付けを解かれ肩で息をする植木の頭を軽く撫でる。 「どうしたんだ?今日はやけに積極的じゃねーか」 にやにやと、親父くさい笑みを浮かべながら問う。 そこに理由があるならば、聞いておかなければならない。 また同じ不安を抱かせないように。 「別に・・・」 植木はふてくされたように横を向いてしまう。 けれど、言葉はすぐに続けられた。 「ただ、今言わなきゃ言えなくなるかもしれないから・・・」 今言わなきゃ、今やらなきゃ。 植木はいなくなることの不安をよく知っている。 そして、そうであるならば植木にこんな言動をさせたのは小林以外の何者でもなかった。 「そうか・・・」 小林は植木を抱き締める。 植木も、小林の背に腕を回してキツく抱き締めた。 互いの顔は見えない。しかし、確かにそこにいることが感じられる距離。 「植木・・・」 「何?」 「愛してるよ」 小林の腕の中で、植木が耳まで真っ赤にして硬直する。 そんな植木の様子にくすりと笑いながら、小林は植木の頭をぽんぽんと叩いてやった。 幼い子どもをあやす母親のように。力強い父親のように。 植木の緊張が解れていくのがわかる。 小林は、もう一度、今度はうなじにキスを落とした。 「くすぐったい!」 植木がしかし抵抗は見せずに抗議の声をあげる。 始業を告げるチャイムがなった。 しかし2人はその場から動こうとしなかった。 (ま、一回くらいいいだろ) 教師として、生徒に自主休講させるのは忍びないが、今はそれよりも植木の傍にいてやり たいと思った。 自分のために傷ついた心を少しでも癒してやるために。 ここに確かにいることを感じさせるために。 そうして2人は長い間ただ抱き締め合っていた。 |
コバ植です。まだほのぼの?(まだって何) 後に控えている犬佐野や佐野植 がお子様向けではないので、とりあえずこれを最初にUPすることにします。 ところで私は現段階ではうえきの原作もアニメも飛び飛びにちょっと触っただけな状態なので、少しの設定の狂いは見逃してやってくださると助かります。きっと雰囲気は掴んでいるはず。(ホントか) なるべく早くこのギャップを埋めたいと思います。(・・・ということはまだ書く気か・・・?) 追記:あとから原作を読んでみたら、コバセンばっちり風邪ひいてるシーンありましたね。嘘っぱち小説ですみません; |