5センチ。






ピリリリリリ・・・・・・
「ん・・・なんや・・・・・・」
広くもない部屋に鳴り響く携帯の着信音に安眠を妨害された佐野は、不機嫌そうに呟きながら手探りで携帯を掴み着信ボタンを押した。
「なんやねんこない夜中にぃいてまうどわれぇ」
微妙に呂律の回っていない口調で相手も確認しないまま怒鳴りつける。
何しろ“こない夜中”と言うだけあって時刻は午前3時を過ぎたところだ。早起き型の佐野には少々辛い時間であった。
『・・・・・・』
電話の相手は無言のまま通話を続けている。
間違い電話なら切ればいいのに・・・と段々と覚醒してきた頭で思い、時間も時間だし、いたずら電話だろうかと着信先を確認するとそこには
「・・・・・・植木ぃ?」
神様を決めるバトルで出会い共に戦った恋人の名前が表示されていた。
「何や何やどないしたん?こない夜中に電話なんぞ、何やあったんか?」
相手が植木だと分かった途端に不機嫌さは治まったが、代わりに疑問と共に不安が押し寄せてくる。
こんな時間に植木から連絡があるなど前代未聞だ。
何かあったとしか思えない。
しかし佐野の問いかけにも、植木は何も言わないまま通話を続けた。
「植木・・・?」
あまり無言の状態が続くので、間違ってボタンを押してしまったのだろうか、それとも何か言葉を発せられない状況にでも置かれているのだろうかなどと考えをめぐらせる。
そうしているうちに、植木が不意にポツリと呟いた。
『悪い。声、聞きたかっただけ。・・・オヤスミ』
そのまま通話は途切れてしまう。
佐野はしばらく携帯を持ったまま呆然としていた。
「何やっちゅーねん・・・」
植木の突拍子もない行動は日常茶飯事で、いきなり後ろから頭をこすり付けてきたり寝転がる横腹に倒れ込んできたりと佐野の理解を超える行動は数知れない。
しかし今回の電話は何か違うように感じた。
いつものわけの分からない行動とは違う何かが、植木の中で何かが起こっているような気がして、気がついたら植木の家の前まできてしまっていた。
(・・・こないな時間に、どないする気やねん俺・・・)
植木の部屋の窓を見つめ、自分の行動を冷静に見つめる。
けれど、間違ったことをしているとは思えなくて、古典的だなどと思いながらも佐野は近くに落ちていた小石を拾った。
(・・・寝とるんやったらそれでもえぇんや)
手の中の小石を見つめながら思う。
携帯で電話を掛けてしまえば、先程佐野がそうされたように寝ている植木を起こしてしまうことにもなりかねない。
しかし、この小石なら。
佐野は心の隅で、寝ていてくれればいい、この小石の音に気付かないでくれればいいと思いながら窓に向かってその小石を投げた。
小石はコツンと窓に当たって跳ね返る。
(・・・寝とる、か?)
一瞬の静寂のあと、佐野の期待を裏切るように小さな音を立てて窓が開かれた。
部屋の主が顔を出す。
「・・・佐野ぉ?」
「よ」
思っていたよりは普通だなどと思いながら返事を告げる。
そのまま話を続けるわけにもいかないので、少し歩かないかと真夜中の街へと植木を呼び寄せた。
ややあって植木がこっそりと玄関から姿を現す。
「俺・・・こんな時間に外出るの初めてだ」
「俺もや」
笑いながら植木の手を取る。
すると植木は慌てて佐野を引き止めた。
「何や?」
振り返ると同時に、ふわりと暖かいものが首に触れる。
見るといつも植木が首に巻いているマフラーが、佐野の首に巻かれていた。
「上から見てて、寒そうだと思ったから・・・」
赤い顔で、口を尖らせて言う。
自分だって寒いだろうにと優しく微笑みながら、佐野は改めて植木の手を取った。
「したらお前は俺があっためたる」
行こか?と促す佐野。
植木は答えることもできずに俯きながら佐野の隣を歩いた。
温かい佐野の手を、固く握り締めながら。









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哀沢架罹様リクエストの佐野植です。ホントは鬼畜佐野植って言ってたんだけど・・・普通に佐野植です。ラブい?どうだろう。
なんとなく前提にコバ植がある気がしてなりませんが、まぁこれ単品でなら許される・・・よね?(ごめんね、哀沢君;)


ちなみに題材はWaTの『5センチ。』です。ホントごめんなさい。
でもねでもね、1番のAメロとか2番のA・Bメロとかが可愛くて可愛くてうっかり植木に変換したらこうなっちゃったんですよ(笑)ちなみに関係ないですがこの曲の裏面の1番はハイエドに聞こえます。(はいはい)



2006/3/16


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