束の間の食卓 トントントントン・・・ 部屋の中に規則正しいリズムが響く。 「はぁ〜・・・」 そのリズムを刻んでいる元を見つめながら、火澄はため息をついた。 落ち込んでいる・・・わけではなく、どちらかと言うとその“元”を尊敬しているような意味合いでのため息である。 「見事なもんやな〜」 そう言って“元”に対して微笑いかける。 火澄が見事と評した“元”とは、すなわち歩の腕である。 ・・・否、腕によって操られた包丁、と言うべきかもしれない。 歩によって見事なさばき具合を披露している包丁は、そうしている間にも色とりどりのサラダを作り上げていた。 「別に・・・そんなに感動するほどのもんでもないだろ・・・」 「アカン!!」 歩の言葉を遮るようにして、思い切りよく机を叩きながら火澄が主張する。 「そないなことやから歩は清隆に負けっぱなしなんやん!見事なもんを見事っちゅーただけなんやから、素直に認めとき!」 さらりと痛いところを突かれたものの、火澄の主張に非は無く、あまつさえ 「歩はもう少し素直にならなアカン!」 とまで言われてしまっては、さすがの歩も勢いに押され、言葉を失うしかなかった。 反対に、歩の反論が無いのをいいことに、火澄の主張は益々ヒートアップしていく。 「大体、歩は意固地やねん。自分は清隆に敵わないーとかやーなこと思い出すからピアノは嫌やーとかまどかおねえさんが好きやから他の女の子はどーでもえーとか!」 まどか、という名前が出たところで、歩が少しムッとしたように火澄の方を見た。 火澄は気付いているのかいないのか、言葉を止めようとはしない。 「思い込んだら一直線やねんな・・・まぁある意味自分に正直なんかもしれんけど・・・けどそれってただの我侭やん?あーでも歩って我侭そーやもんなー・・・」 と火澄が自問自答気味に声を低くしたところで、歩が反論を返す余地がやっと与えられた。 「そんなことは言われなくても分かってるさ」 だが、その反論が火澄に火をつけたようで、火澄は更に勢いよく机を叩いて歩に捲くし立てた。 「分かっとらんねんっ!!ええか?理解っとるっちゅーことはどうしたら良うなるか知っとるっちゅうことやねん!でもお前は良うしようとせえへん!違うか?!」 「・・・そりゃあ、しようとしてないからな」 「アカーーーンッ!!」 バンッバンッ!!! 火澄は感情に任せて机を叩き続ける。 このままでは机の存亡の危機だ。歩はそう悟った。 (こいつはねーさんと同じタイプだな・・・) 興奮すると周りの迷惑など省みずに自分の主張を通そうとする。 そういった面で、火澄とまどかは非常に似通っていた。 (まぁ、酒を飲む分ねーさんの方がタチが悪いか・・・) とはいえ、なまじ腕力のある分、火澄も充分にタチが悪いことに変わりはない。 歩はこれ以上火澄を刺激しないよう逆らわないことに決めた。 火澄は続ける。 「そこで物事をええ方にええ方に持っていく努力が人間必要やねん!!お前は努力をしなさすぎる!」 「まぁ・・・」 そうだな、と続けようとした言葉は、またしても火澄に遮られる。 「分かってんねやろ!?やったら少し努力せえ!お前が努力せんかったら・・・」 言いながら、火澄の瞳が僅かに揺れる。 「オレの未来変えるほどの力なんて引き出せへんわ・・・――――」 歩に委ねられた自分の運命。 自分では変えることの出来ない、変えることができるのは歩しかいない、定められた未来。 「――――――そうだな・・・・・・」 そんな火澄を見て、歩も自分の決意を確認する。 (そうだ・・・俺は運命とやらに向きやってやると決めたんだ・・・) 歩の瞳にそれまでとは違う強い意志の色が宿る。 「俺は誰も殺さない。お前も――――殺さない」 真っ直ぐに、火澄の瞳を見つめて言う。 殺さない。 だから、誰も、死なない。 「ん・・・・・・」 火澄が微笑う。 「やっぱ歩は素直んなったほうが可愛えわ」 「・・・・・・はぁ?」 火澄の突拍子も無い言い分に目を丸くする歩。 珍しいことに、その頬は赤く染まっている。 「?なんでそないに驚くん?可愛いもん可愛いて言うただけやん」 「・・・・・・そうか・・・」 「そや」 トントントントン・・・ 部屋の中に規則正しいリズムが響く。 「・・・あ、照れてんねんか?」 ズドッ! およそ料理を作っているとは思えないような音も響く。 「なんや〜可愛えやっちゃな〜」 嬉しそうに笑いかける火澄。 歩の顔はこれまでにないくらいに真っ赤だ。 「うるさい」 「またまた〜照れ隠ししたかてその真っ赤な顔が証拠や!」 そう言って指を突きつける。 「・・・っ・・・」 動揺を隠せない歩。 そんな歩の様子を面白がってすらいる火澄。 これ以上からかわれるのはごめんだとばかりに、歩は出来上がった食事を次々と火澄の前に並べていく。 「お、ご飯できたん?うまそやな〜」 「早く食え黙って食え」 「おっかないな〜・・・ほな、いただきますっ」 2人で囲む食卓。 長くは続かないと分かっているはずの、束の間の穏やかな時間。 (このまま楽しゅう暮らせたら、ほんでええのにな・・・) 火澄のささやかな願いは、叶うはずのない夢。 けれど今だけは。 このまま2人で楽しい時を。 穏やかな時を。 |
初・火歩。はい、これが正真正銘初めて書いた火歩です。 火歩へのハマりっぷりとハマりたての勢いが感じられる一品(笑) 原作の展開が予想外に早いので今のうちにUPせねば!と必死こいてUPしました。 この後どうなるんでしょうな〜・・・火歩の運命やいかに!(そこかよ) |