目の前を横切る救出ポッドに、覚えのある赤い髪の少女が見えた。 「っフレイ!!」 護らなければ。彼女は僕が護るべき少女だ。 声をあげると同時に、意識するよりも早く体が動いた。 早く、早く、早く。 焦燥に駆られ必死に伸ばした手は・・・間一髪のところで彼女に届いた。 高嶺の花 フレイ・アルスター。 ひそかに想いを寄せていた少女とは、戦場で思わぬ再会を果たした。 彼女がサイの婚約者であることは聞いていたけれど・・・そして彼女はただ知っている顔に安堵しただけなのだろうけれど、抱き付かれた時には思わず心のどこかで役得だなんて思ってしまったりもした。 サイと無事を喜び合う姿にどこか悔しく思ったりもした。 決して手の届かない存在だと思っていた。 けれど彼女は僕のところまで降りてきた。 最初はわけがわからなかった。 でもすぐに、彼女の怒りと悲しみの深さを思い知った。 彼女は僕を憎んでいる。僕が彼女の父親を護れなかったから。 護るって約束したのに。 僕はそれを裏切った。 だから彼女の怒りは、正当な怒り。 彼女は何も悪くない。悪いのは僕だ。 彼女をここまで引きずり堕としたのは僕だ。 だから僕は彼女を護らなければならなかった。 これ以上僕のせいで彼女を苦しめてはいけないんだ。 ・・・歪みには、きっと途中から気付いていたと思う。 それでも僕は彼女から離れられなかった。彼女がいるとつい寄り掛かってしまいそうになる。 それこそが過ちだと気付いていても。 フレイの想いは別のところにあると知っていても。 サイに盗られたくなかった。盗られるところを見たくなかった。 サイの背中を見つめる姿なんて見たくなかった。 どんどんと自分が歪んでいくのがわかる。とても醜い姿に変わろうとしている。 見たくなかった。もう何も、見たくなかった。 そうして、何も見ようとせずに内に篭っている間に―――――フレイは消えてしまった。 「フレイっ!フレイ!?」 ポッドを護りきった僕は、真っ先に彼女を探した。 戦争なんてどうでもいい。彼女を護ることが何よりも大切なのだから。 僕はいつしか見失っていたそれを急に強く思い返した。 彼女は生きていた。生きていたんだ。 護らなければならない。もう二度と悲しい想いをさせてはならない。 取り戻したい。彼女を。 彼女がくれた戦う意味を。 ―――――彼女を護る。 たったそれだけで僕は戦場を恐れずに進むことができる。 僕には彼女が必要なんだ。誰よりも彼女を必要としているのは僕なんだ。 だから―――――奪わないで。 どうか誰も奪わないで。僕から彼女を。 彼女の笑顔を僕に見せて。お願いだから。 お願いだから。 涙で顔が見えない。 今 君はどんな顔をしているの? どんな声で、誰を呼ぶの・・・? 「・・・っ」 僕はその時、彼女の吐息を聞いたような気がした。 どうしてだろう・・・ 息が上がる。うまく呼吸ができない。 不安が胸に広がる。 「フレイ・・・?」 辺りを見回す。 そこは宇宙でも戦艦でもない。地球の、大地の上。 僕の部屋の、ベッドの上。 「フ、レイ?」 もう一度呼ぶ。 返事はない。 「フレイ?どこ、どこにいる、の?いるんでしょ?ねぇお願いだから出て来て、僕を独りにしないで」 辺りを探しながら呼びかけても、何も返ってはこない。 確かにこの手で彼女を捕まえたのに。この手は彼女に届いたのに。どうして。 「ゃ・・・だ、あ、っ・・・」 不安が胸に広がる。 息ができない。息の仕方がわからない。 どうしていないの?護れたのに。やっと護ることができたのに。 「あ、ぁ・・・ぁっ」 声が出ない。指が、全身が震える。 この手は、届いたんじゃなかったの・・・? 「フ、レ・・・」 フレイがいない。フレイがいない。フレイがいない。 僕はまた何も護れなかったのか。 「あぁぁあぁぁぁーーーっっ!!」 「キラっ?!」 ガシャーン・・・と、遠くで食器が床に落ちる音を聞いた。 慌てて誰かが駆け寄ってきたが、声は聞こえなかった。 視界の端に柔らかい桃色の髪が映る。 フレイじゃ、ない。 フレイがいない。どこにもいない。 僕は一体、何を護ったっていうんだ。 フレイじゃなければ、何を――――― 最初から手の届かない存在だった。 最後まで、手は届かなかった――――― |
キラフレです。キラにはいつまでも後悔していてほしいなぁなんて・・・キララク派の方には申し訳ないですが; |