彦星は織姫に恋をした






『まぁ、今日は七夕ですのね♪』


プラント中に大きく映し出されたモニターの向こう側で、いつものようにのんびりとした口調でラクスが言う。
どうやら歌番組に生出演をしているらしい。
司会の奴が「七夕と言えば織姫と彦星ですよね〜」などと適当に相槌を打っているのが聞こえる。
『あら、七夕と言えば笹の葉を飾り付けて、短冊にお願い事を書くのですわ』
『確かに。ラクスさんはおうちで笹の葉に飾り付けをしたりはするんですか?』
『えぇそれが・・・今年は忙しくてできませんでしたの・・・』
残念そうなラクスの表情。
そういえば、最近ラクスは多忙のようで、逢いに行っても不在のことが多い。
逢いたいのに、逢えない。
そんな状況に自然とイライラが募る。
七夕だって?年に一度しか逢えない恋人たちだって?・・・そんなの、俺なら耐えられない。
今ここで君を攫ってしまいたい。
今すぐにでも君を抱きしめに行きたい。
そんなことを思いながら、モニターの向こうの・・・俺の手の届かないところでラクスと会話をしているだけの司会の奴にさえ嫉妬している自分に気付き、我ながらおかしいんじゃないかと自嘲気味に笑う。
俺はいつからこんなにも彼女のことが好きになってしまったのだろう。
けれど、俺がどんなに彼女のことを想おうと、モニター越しの君にはこの想いの欠片さえも伝わらない。
それがひどくもどかしくてたまらない。
『ラクスさんには、中々逢えないけれど逢いたい!っていう人はいるんですか?』
嫉妬というものは恐ろしいもので、司会の彼は仕事でラクスを独占しているだけなのに、今の俺にはそれすらも憎らしく見える。
彼の言動全てを否定したい気分になる。
あぁ、ラクスに対して、なんて頭の悪そうな質問だろう。
俺は呆れ半分でモニターに映る彼女を眺めていた。
・・・彼女は今、どんな気持ちでこの質問を聞いているのだろうか。
『そうですわね〜・・・』
こんな司会に対しても優しい態度と穏やかな微笑みを崩さない彼女。
仕事だから仕方ない・・・と思うけれど、どうしてもどこか許せない。
次に逢ったときには、嫉妬に駆られて何をしてしまうか分からない。
逢いたくない。
逢ってはいけない。
でも、逢いたい。
俺の中にどす黒い感情が渦巻いているのが分かる。
ラクスを閉じ込めて、俺だけのものにしておきたい。
彼女が俺以外を見ているなんて許せない。
いっそこのまま君とどこかへ逃げてしまおうか・・・?
そんな想いとともに自分を取り巻く狂気に触れる。
だんだんと、飲み込まれていくのが分かる。
だが・・・そんな醜い感情は次の彼女の言葉で掻き消された。


『私が織姫でしたら、彦星はアスランですわ』


・・・一瞬にして霧が晴れる。
まさかこんなおおっぴらな場面で俺の名前を出すなんて露ほどにも思わなかったし、逢いたい相手が俺だということにも驚いた。
確かに俺だって同じ想いだけれど。
でも、こんなに堂々と言ってくれるとは思わなかったから、すごく・・・ものすごく、嬉しかった。
『アスラン?お暇でしたら、後で私のお家に来てくださいな』
モニターの向こうから、俺に向かってひらひらと手を振る。
「敵わないな・・・」
たった一言で、しかもこんなに遠く離れたところから、俺の心を癒してくれる優しい彼女。
かけがえのない、ただ1人の俺の婚約者。


彼女の家に行くときには何を持って行こうか。
ああ、そうだ。
忙しくて飾れなかった笹の葉に、2人で飾り付けをしよう。
短冊に願い事を書いて、笹の葉に飾ろう。
いつまでも仲の良い織姫と彦星のように。
いつまでもお互いを想いあえるように。
優しい優しい、祈りを込めて・・・









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ちょうど1か月前に日記に上げた七夕ネタを書き直したものです。
書き直した意味があったかどうかは不明。
とりあえず、日記よりアスランが黒いのは何故・・・!?



2004/8/7


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