また会えたね






あれから2年が経った。
私は高校3年生になり、あの頃に比べれば大分落ち着いたんじゃないかと思う。
それはやっぱり、あのたった10日間の出来事が私の中にあって、それが今も影響を与えているからじゃないかなって思う。
あの10日間で、私は匠と一緒に鏡の中に入って、多喜子ちゃんたちと旅をして、修羅と出会って、恋をして―――――失う辛さを知った。
あの経験は、忘れることのできない大切な思い出として今も私の中にある。




4月9日、始業式。
窓の外には青空と桜の花なんかが見えちゃったりして、こんな日は家でのんびりとしていたいのが本音。
暖かい空気に誘われるように、うつらうつらと意識を飛ばしながら壇上の先生の話を聞いていると、後ろに並んでいた友達が背中をつつきながら小声で話しかけてきた。
「ね、ね、麻理子」
「ん?何?」
寝ぼけ半分で、私も小声で聞き返す。
どうやらまだ先生たちには気付かれていないようだ。
「昨日、入学式があったじゃん」
「あー・・・昨日だっけ?」
私の高校では、入学式は始業式の前日に行われ、新入生と一部の上級生が出席することになっている。
一部のってのは生徒会とか吹奏楽部とかだ。
私には関係ないけど。
「私出てたんだけどさぁ、今年の学年代表めちゃくちゃ可愛いよ!」
学年代表、とはつまりいわゆる首席。学年代表になっちゃった子は、入学式で壇上に立って何か「学校生活がんばります!」みたいな宣言をしなくちゃならないのだ。
やっぱり私には関係ないけど。
「可愛いって、女の子?」
「バッカ、男の子よ男の子!ハーフかなんかなのかなぁ、銀色っぽい髪に茶色だか赤だかの瞳しててさ、笑顔がめちゃくちゃ可愛いの!」
「よく見てるねぇ・・・」
学年代表だか何だか知らないけど、さして興味をひかれない私は適当に相槌を打って会話を流そうとしていた。
けれどどうしても私に話をしたいらしく、言葉を続ける。
「それだけじゃないの!すごいんだから!」
「何が?」
含み笑いを隠しきれないような顔で肩を叩いてくる。
何がそんなに面白いんだろう。
「その子ね、代表の挨拶で何て言ったと思う?」
「えー?大体いつも同じでしょ?規律正しい学校生活をーとか充実した高校生活になるようにーとか」
こういった挨拶は大抵最終的に先生のチェックが入っていつも同じ感じにまとめられる。
だから今年もそんなもんだとばかり思っていたのだけれど。
「そりゃもちろん大筋はそんなもんよ。けど最後が違ったの」
「最後?」
「“最後に、俺個人の目標を宣言したいと思います”って」
さもおかしなことのように言われて、私の頭に“?”がいくつも浮かぶ。
「いつもと変わんないじゃない」
「違うのはその中身!先生たちも慌てちゃっておかしかったんだから」
だったら早くその中身ってのを教えて欲しい。
私は段々うんざりしてきた。
「教える気ないなら聞かないよ?」
「ごめん、ごめん」
笑いながら謝る。
そしてやっと彼女はその中身を私に教えてくれた。
私には想像もつかないような、衝撃的な中身を。
「その子が言った目標ってのはね・・・」
私もやっぱりちょっとは気になるから、息を呑んで次の言葉を待つ。
「“麻理子に会って抱きしめてあげること、これが目標です”だって」
「えぇぇーーーっ!?」
思わず小声ながらも叫んでしまい、先生に睨まれる。
だって、それってどういうこと?!
「ねぇ、どういう知り合いなのよ?」
にやにやと笑いながら小突かれて、しどろもどろになってしまう。
「は?!だって、名前が麻理子ってだけじゃん!知らないよ!!」
「そうは言うけどー・・・少なくともうちの学年で「麻理子」はあんた1人しかいないんだからねー?」
嬉しそうに言われて、本当に自分だったりしたらどうしよう、なんてバカなことを考えてしまう。
けれど次の瞬間、彼女が言った学年代表の特徴ってのを思い出した。
銀色の髪に、赤い瞳―――――
私の脳裏を忘れられない大切な笑顔が過ぎる。
バカな考えかもしれない。
それでも確かめずにはいられなかった。
「その子、何組?」
「あ、やっぱり気になる?」
「そんなんじゃないけど・・・」
本当に、そんなことがありえるんだとしたら。
私は一刻も早くその子の元へ行かなければならない。
修羅の元へ。
人間になった、修羅の元へ。









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誕生日が来てるかどうかとか学年的な年齢差はいくつかとかきっちり計算した上で書いたこの作品。
そこまで思い入れてるのに2人が出会うシーンまで書けていないっていうのはどういうことなのか・・・。
いや、ね、ホントは書くつもりだったんですよ。でもなんか書いてたら説明だけで長くなっちまったよっていう・・・構成力と無駄を省く力を身に付けたいです。ホント(涙)



2006/3/2


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