『こっちに来いよ』 人殺しを楽しめばいいじゃないか。 松陽先生を殺したヤツらなんか皆殺しにしちまえばいい。 てめェだって本当はそう思ってんだろ? 『なァ、銀時ィ・・・』 赤い現実 血に染まる自分の手を見ながら、段々と麻痺していく自分の心を感じていた。 死に慣れていく。 殺すことに慣れていく。 ―――――自分が生き延びるために。 人殺しの理由が見えなくなったのはいつからだったろう。 もうやめてしまおうかと真っ赤な掌をぼんやりと眺めていると、決まって高杉がやってきていつもの誘い文句を言った。 「なァ銀時・・・殺しがツラいならやめちまえよ」 高杉は決まってそう言った。 「やめちまえよ、ヒトなんてよ」 ―――――時折、高杉は本当にヒトではなくなっているんじゃないかと思うことがあった。 返り血に赤く染まりながらも尚笑いながら他人の血を求める。 そんな高杉の姿が獰猛な獣のように思えて、時に堪らなく恐ろしくなった。 「やめろ高杉」 そんな高杉を止めるのはいつだって桂の役目であった。 「お前は殺しすぎる」 桂は戦いにおいて容赦はしない。 けれど戦意を失ったものは討たないなど、自分の中できちんと殺すことへの線引きができている男だった。 どちらつかずなのは自分だけか。 ―――――いや、そうでもない。 ふと、同じようにどちらつかずでその時の気分によって力を加減できなかったり敵を見逃してしまったりする坂本のことを思った。 しかし彼も、桂のような線引きはないが殺しへの覚悟は出来ているように思えた。 覚悟が・・・必要なのだろうか。 「悩む必要なんてねぇだろ?」 高杉の言葉が耳元にやけにはっきりと落ちる。 「こっちに来いよ銀時ィ・・・そうすりゃお前、楽になれるぜ?」 高杉の言葉はどこか魅力的だった。 松陽先生を失ってから、ずっと戦い続けてきた。 けれど埋まることのない心の隙間に、高杉が入り込んできた。 慰めあうように互いを抱きしめた。 そうやって嘘でも幻でも癒しを与えてくれる存在であった高杉の言葉は、銀時にとって都合のよい、甘い罠のようであった。 何も考えずに修羅となってこのまま2人で居られたら。 何度もそう思っては足が竦んだ。 なれない、高杉のようには。 あんな風に何も恐れずにヒトを殺すことなんて俺にはできない。 何度も高杉の傍へ行きそうになり、何度もそれを怖いと感じて踏みとどまった。 そして――――― 「高杉・・・俺は・・・・・・」 ―――――お前のところには行けないと告げたときの、高杉の目が忘れられない。 高杉は、銀時はいつかこちらの世界に来ると信じていた。 固く信じて、疑うことがなかった。 けれど銀時はそれを拒んだ。 彼にはそれが許せなかった。 「・・・じゃあお前、もういらねェ」 「・・・・・・ぇ」 銀時が息を吸う暇もなく、あっさりと高杉は背を向けた。 「待・・・て、高杉・・・っ」 追いかける銀時の手をいとも簡単に払う。 高杉に捨てられたと理解するには時間がかかった。 「アレはよぉ・・・・・・・・・そりゃあもう世界が地面から抜け落ちちまうような感覚でよォ・・・・・・」 「ア?寝言か?」 呟く銀時を横目に煙草をふかす土方。 今更何故あの頃の夢を見たのだろうか。 世界の半分が高杉に支えられていて、残りの半分が桂や坂本、攘夷運動の仲間達でできていたあの頃。 まだ幼かった銀時にとって、世界の半分を失うことは絶望にも近かった。 「もう・・・忘れてっと思ってたんだけどな・・・・・・」 何故、今になって。 ―――――それは、もしかしたら高杉との再会を暗示していたのかもしれない。 |
構想メモには、続きとして「高杉に頂かれてしまう銀さん」「土方の傍に戻ろうとする」「けれど高杉の傍は居易い」「銀さんを必死んなって探す土方・協力する沖田(土←沖)」「土方とは別に銀さんを探していた桂」「高杉のもとへ」「俺は貴様が嫌いだ、昔から(銀さんを取られたから)」「お前も可愛がってやってもいいぜ(高桂!?)」「土方のところに戻る」とあるのですが・・・だれかこのメモから続きを作ってはくださいませんか・・・(他力本願) |