優しい気持ち +++独白――銀次サイド あんな奴のどこが好きなのよ。 そう言った卑弥呼ちゃんの顔は、呆れているような、でもすごく柔らかい優しい顔だった。 ・・・正直、ちょっと悔しい。 卑弥呼ちゃんはオレと会う前の蛮ちゃんを知ってて、[邪馬人]さんといた頃の蛮ちゃんを知ってるから。 オレが知ることの無い蛮ちゃんを知ってるから。 今の蛮ちゃんだけでいいなんて、そんなの本心から言うことは出来ない。蛮ちゃんが[邪馬人]さんのことを話したがらないのだってすごく不安だ。 それが蛮ちゃんの優しさだってことは理解ってるけど。 蛮ちゃんは優しいから。 それでも全てを知りたいと思うのは罪なこと・・・? +++独白――蛮サイド 最近銀次がしつこい。 時も場所も関係なく昔のことを聞きたがる。 ・・・おもしろいことなんて何もありはしないのに。 それでもいいと、自分の知らないオレのことを全て知りたいと言う。 それは、反則だろ? そう言ったらあいつは一言「うん・・・」と答えたきり黙り込んだ。 オレの何が知りたい?知ったところでどうなる? 知ったところで、今の関係が壊れるだけだ。 オレがどんなに今のままの関係を望んでいるかなんてあいつは知りもしないくせに。 ・・・でも、それを知らないのはオレが話していないから。 話そうとしないから。 それでも理解って欲しいと望むのは、オレの我儘なんだろうか・・・ +++独白、解逅。 長い沈黙の後、先に話を切り出したのは蛮の方だった。 「・・・そんなに、知りてぇか?」 蛮は睨み付けるように銀次の表情を伺う。 「うん」 蛮の瞳を真っ正面から受けとめ、きっぱりと頷く銀次。 その真剣な眼差しに躊躇いの色はない。 蛮は諦めたように目を閉じ、深く息を吐いてから、銀次の顔は見ないままでぽつりぽつりと語りだした。 邪馬人のこと、出会いと別れ、そして自分との関係。 蛮が語り始めてから、銀次は素直な反応をぶつけるでもなくただ黙って蛮の話を聞いていた。 怖いくらい静かに。 それが蛮を追い詰めているとも分からずに。 ひたすらに黙って聞いていた。 +++解逅、そして・・・ 再び沈黙が辺りを包む。 全てを話したからといって蛮の恐怖が消えるわけではない。 むしろそれは時を増す毎に増幅し、膨れあがる。 「気は、済んだかよ」 銀次に自分の恐怖心を悟られないよう言葉を絞りだす蛮。 ・・・銀次がそれに気付くことは無いのだけれど。 「うん・・・蛮ちゃん、話してくれてありがと。後・・・ごめんね」 その言葉に思わず体が強張る。 「何、謝ってんだよ・・・今更っ」 銀次は、動揺する蛮の口から溢れだす言葉を止めようと軽く唇を塞ぐ。 「ッ・・・ん」 蛮が少し落ち着いたのを見てから体を離すと、蛮が物足りなそうな顔で銀次を見る。 「蛮ちゃんそれ無意識でしょ・・・ずるいなぁ」 +++不安と解放 「でもダメだよ。先に謝りたいから」 そう言って微笑み掛ける銀次は、蛮の心境なんて分からないまま。 「蛮ちゃんごめんね。話してるときの蛮ちゃん、すごくつらそうだった。だから、そんな話させて、ごめん」 「・・・それだけ、か?」 蛮は拍子抜けしたように呟く。 「え?他に何かあるの?え、ご、ごめん・・・」 銀次は蛮の呟きの意味もわからないまま謝る。 けれどそれが却って蛮を安心させた。 「わかんねぇんなら謝ってんじゃねーよ」 「ご、ごめん・・・」 なおも謝る銀次に苦笑する蛮。 そんな蛮に銀次も少し安心したらしい。 えへへと申し訳無さそうに笑うと、今度は銀次から話を切り出した。 +++銀次の言い分 「でもね、蛮ちゃん。オレ、話聞いたの後悔してないから」 「なんだよいきなり・・・」 銀次の思考は掴めない。いつだってそうだ。 だからこそ不安にもなるし、驚かされることも多い。 「やっぱり昔の話聞いて良かったって思ってる。邪馬人さんのこと、聞けて良かったよ。話してくれてありがとね、蛮ちゃんっ」 そう言って得意の笑顔を見せる。 どこまでも幸せそうな、あの笑顔を。 「・・・・・・」 蛮は呆気に取られ、言葉を失った。 なんでこいつはそんなこと笑顔で言えるんだ? 過去の話なんて聞くもんじゃない。少なくとも自分はそう思ったのに。 「お前・・・それ本気で言ってんのか?」 「うん」 +++怒り あっさりと肯定する銀次に腹が立つ。 どうしてこいつはこうなんだ!? 「頭いかれてんじゃねぇのか!?」 いらついた口調で銀次を詰る蛮。 「え・・・」 蛮の様子に戸惑いを隠せない銀次。 「蛮ちゃん落ち着いてよ」 「うるせぇっ!!」 宥めようとしても、蛮はそれを受け入れてはくれない。 「そんなに・・・嫌だった・・・?」 銀次が泣きそうな顔で尋ねる。 蛮の返事は無い。 「ごめん・・・オレ一人嬉しくて・・・蛮ちゃんがそんなに嫌がってたの、わかんなかった・・・ごめん・・・ごめんね・・・」 俯いて、謝罪の言葉を述べる。 それは見当違いな謝罪だったけれども、蛮の気を落ち着かせるのには充分だった。 +++蛮の言い分 「違う・・・違げぇよ、銀次」 「え?」 ぱっと顔をあげ、蛮の方を伺う。 「違う、って何が・・・?」 蛮が怒っている理由が分かっていない銀次は、訳が分からないまま蛮の言葉に耳を傾ける。 「違う・・・そうじゃない・・・お前が謝る必要なんてどこにもねぇよ。オレが・・・オレが理解らねぇだけだ。何で・・・お前はそうやって笑える・・・?」 銀次の瞳に自分の姿が映っているのが見える。 ひどく情けない姿が。 「蛮ちゃん、言ってる意味がよくわかんないよ」 少しくらい察する事は出来ないのかと思いながらも、銀次にそんな機能を期待しても無駄だと分かっているので言葉を付け加える。 「お前は嫌じゃないのか・・・?」 +++問答・結末 「嫌じゃないのか?昔の話なんかされて・・・お前にだって分かんだろ?オレと邪馬人がどんな関係だったか。それでなんで何も変わらずにそうやって笑ってられんだ・・・?」 これ以上無いほど分かりやすく説明を加える。 おかげで銀次にもその意味するところがやっと分かったみたいだ。 「なんだ、そんなのオレが蛮ちゃんを愛してるからに決まってるじゃない」 笑って言う。 当然だと言わんばかりの銀次の態度に思わず力が抜ける。 そんな蛮を見てにっこりと笑う銀次。 結局、蛮の不安は銀次によって打ち砕かれた。 心配なんていらない。 この 天野銀次という男の前では、蛮の常識なんて通用しないのだ。 幸せそうに笑う銀次に感謝すらしながら、蛮もやっと笑顔を見せた。 とびっきりの笑顔を見せた。 |
何故小題がついているのか。理由は簡単、ドコモのメールは500文字までしか送受信できないから。 というわけで旧携帯で打ってパソに送ったネタです。その際に一通一通わざわざタイトルを付けていたのでそのままUPしてみました。 内容的には、銀次が・・・違うなぁと。銀次はこんなこと言わない。銀次は待てる人だから催促なんてしない。 そう思っているのに何故かこんなものが出来上がっていました。何・故・だ!! でも碧翠はこういう話が好きなのです。こういう話しか作れないのです。しょうがない。(しょうがないで済ませてちゃいけないと思うのですが・・・?) |