夢を見ていた。
遠い遠い昔の夢。
捨てられた記憶。


「オレが欲しいのは『雷帝』だ・・・お前じゃない」


だから探していた。
空洞を抱えたままの心を埋めてくれる誰かを。
たった1人の誰かを。


オレはずっと待っていた―――――






希望すくい




「アンタ、何者?」
ボロボロになった状態で、それでも上から見下ろしたような態度で尋ねる銀次。
それがどうにも蛮のプライドを刺激するらしく、銀次との死闘――実際蛮もかなりボロボロな状態だった――に勝った割には機嫌が悪い。
「それが人にモノを尋ねる態度かよ!」
不機嫌な様を隠そうともせず、イラツキ度MAXで煙草を手に取る蛮。
ところが。
「ごめん・・・」
意外にも素直に謝ってくる“雷帝”に拍子抜けをしながらも、蛮はなんとなく納得した。
あぁ、コイツはそういう奴なのか、と。
それならば突っ掛かっても仕方がない。悪気がないのだから。
蛮は興味なさげに会話を続ける。
「オレはただの奪い屋だ。ここには・・・仕事、で来ただけさ」
少し言いにくそうに、言葉を紡ぐ。
別に嘘ではない。依頼人のいない「仕事」であるだけで。
「奪い屋?」
「ああ」
蛮は自分の心境を悟られないように注意深く言葉を返す。
「もうやめるけどな」
そう、だってもう続ける意味が無い。続ける勇気が無い。
つまらなそうに語る蛮に対して、銀次の態度は興味津々といった感じだった。
それもそうだ。銀次にしてみれば、蛮の話すことは全て外の世界の、自分の知らない世界の話なのだから。
「奪い屋・・・ってことは、ここには何かを奪いに来たってこと?」
「そんなところだな」
「何を?」
と、そこまで聞かれて言葉に詰まる。
何を?――――そんなことは明白だ。
だが、自分がここに来ることになった子どもじみた理由を馬鹿正直に語るのは蛮のプライドが許さない。
第一初対面の奴に何故そこまで話さなければならないのか。
そう思いながらも――――もうここにしか当てが無いことも事実だった。
「人を・・・」
「人?誰?」
普通そこまで追求するか?
そう反論したいけれど、コイツはこういう奴なのだ。反論したところで暖簾に腕押ししたような気分を味わわされるだけだ。
それに・・・こんな奴でも一応“無限城の雷帝”だ。もしかしたら、万が一にも何か知っているかもしれない。
そんな期待が蛮に真実を告げさせた。
「・・・工藤、邪馬人」
「工藤、邪馬人?」
蛮の言葉をいちいち繰り返して確認してくるのが何だか腹立たしい。けれどどこか憎めないのも正直なところで。
「そうだ。・・・心当たり、ねぇか?」
当たり障りの無い質問で銀次に問いかける。
信じてなんかいない。
死んだ人間は生き返ったりはしない。
今まで自分が殺してきた多くの人間がそうだったように。
生き返ってくれたりは、しない。
分かってはいても期待をしてしまう。それに、ここまで来てしまったのだからどうせなら何か収穫を得たい。
そうやって自分に言い訳をしながら、銀次の答えを待つ。
答えは案の定、NOだったけれども。
「ごめんね」
コイツが謝る必要がどこにあるのか。第一そう謝られてしまうと、逆にこっちが恥ずかしい。
「おめぇが悪ぃ訳じゃねぇだろ」
そうさ、大体、信じてなどいなかったのだから。
信じてなど、いなかったのだから。
「邪馬人に逢えねぇんならもうここに用はねぇ。帰るよ。悪かったな騒がして」
そう言って踵を返す。
もと来た道へ・・・もう、ここには来ない。
そう心の中で誓いながら。
「っオイ!」
思わぬ呼び止めに振り返る蛮。
「何だ?」
聞かれて、呼び止めてしまった自分に戸惑う銀次。
何で?
呼び止めた理由が分からない。何を言えばいい?何が言いたい・・・?
自分の起こしてしまった行動に、自分自身訳が分からず立ち尽くす。
先に口を開いたのは蛮の方だった。
「・・・ついでだから言っといてやるよ。お前、あんまりここに長居し続けない方がいいぜ。自分でも分かってんだろ?」
――――正直、驚いた。
ほんのわずかな時間ここにいただけで何故そんなことまで分かってしまうのだろうか。
底が知れない。この男は。
銀次はしばらく困惑した表情で蛮の瞳を見ていた。
紫がかった、深い色をした瞳。何もかもを見透かされてしまいそうな、何もかもを仕舞い込んでいそうな、そんな瞳。
そして、孤独を知っている、悲しみに包まれた瞳。
そうしているうちに、知らず知らずのうちに自分の内に湧いてきた感情が何なのか、ようやく理解することが出来た。
――――そうか、オレはこの人と一緒にいたいんだ・・・
だから呼び止めてしまったのか。
もしもこの人と一緒にいられたら・・・
何か変わるかもしれない。何が、とは言えないけれど何かが。確実に変わる、そんな予感がする。
この人に、ついて行きたい・・・―――――


「じゃあ、アンタがオレを連れて行ってよ」


言ってから思わず口を押さえる。
想いに任せて思わず口をついてしまった言葉。
言うつもりなんかなかったのに・・・
どうしてこの人の前だと思ってもみないことばかり言ってしまうのだろう。
でも、それが本心。
それを言わせてしまうのが、きっとこの人の力。
オレは・・・この人について行きたい。


「お断りだな。オレは奪い屋だ。運び屋じゃねぇ」


予想していなかった言葉を突きつけられ、少なからずショックを受ける。
当たり前か・・・
いきなりそんなことを言ったって、受け入れられるはずがない。
「そっか・・・そうだよね・・・」
見るからに気落ちしている銀次の様子に、蛮は微笑った。
「オレは奪い屋だ」
「うん・・・」
それは分かったよ・・・
事実の確認をさせられて、何だか泣きそうになる。
この人は、オレを連れて行ってくれはしない。
けれど、何故か蛮は微笑っていたのだ。
「奪い屋ってのは依頼品を奪うのが仕事なんだよ」
「うん・・・?」
意図が読めない。
どうしてそんな優しそうな顔で微笑うの・・・?
「だからお前が依頼しろ。“奪ってください”ってな」
「え・・・」
「奪ってやるよ、雷帝おまえを。この無限城からな」
意地の悪そうな、少しはにかんだ笑顔。
驚きのあまり声が出ない。
今、彼は何て言った・・・?
瞬時には理解できなかった。
本当に?
オレをここから連れて行ってくれると?一緒にいてもいいと?
段々と、銀次の表情に喜びの感情が表れてくるのが分かる。
本当に・・・?
「しつけーなぁ・・・奪ってやるっつってんだよ、しょーがねーから。オレの―――奪い屋としての最後の仕事だ」
蛮の顔に、嘘を言っている様子は見られない。
連れて行ってくれるんだ、オレを――――無限城の雷帝じゃなくて、オレを。天野銀次を。
「どうすんだよ?依頼すんのか・・・?」
ま、答えは分かりきってるけどな。
鼻の辺りに指を突きつけられそう言われて、自分がいつのまにか笑っていることに気付く。
「うん・・・うんっ・・・!!」
喜びのあまり、気付いたら蛮に抱きついていた。
っだーーーっ何しやがるっ離しやがれっ!!なんて文句言ってるのにも気付かずに、オレはしばらくはしゃぎ続けた。




『雷帝』じゃなくてもいいと、そう認めてくれた初めての人。
それが、美堂蛮だった。









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第一章が1つも仕上がらないうちに第二章が完成してたらどうしよう・・・(笑) というわけで第二章第二話「希望」です。
この話をUPすると共に「狂気」を移動して「ラストレター」というシリーズを立ち上げたわけなのですが・・・どうせ書くなら第一章から書けよ、って感じですね(笑)一応下書きは始めてるんでその内ちゃんとUPすると思いますが・・・予定は未定☆(オイ)


話の内容については・・・私は結構好きなんですよ。これ。自分で言うなって感じですが;
ただ、下書きの後半が時間なかったんだか書き飽きたんだか知りませんがほとんど台詞のみ状態になってまして・・・;間を埋めるのが大変でした。(そのせいで最初三人称だったのがさりげなく一人称に変わってます。しかも何故か銀次視点です。蛮ちゃん視点のシリーズのはずなのに!/笑)←笑っている場合ではない。



2004/4/10


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