「・・・久しぶり」 逢瀬 邪馬人が死んでから1年。ここへ足を運ぶのは初めてだ。 いつも決心がつかなくて、来ることを躊躇っていた。 ここへ来ることができたのは銀次のおかげ。銀次がいなければ、もしかしたら一生、ここ には来なかったかもしれない。 「元気か、邪馬人」 蛮の前にある石碑に刻まれた文字は“YAMATO KUDO”――――そう、卑弥呼の立てた邪馬人 の墓の前に、蛮は今初めて立っている。 別に、この場所を知らなかったわけじゃない。でもどうしても、足を運ぶことができなかった。 「ここに来るのに1年も掛かっちまった。・・・怒ってるか?」 蛮の声に応えるように風が通り抜ける。 何故か、それが邪馬人からの答えのような気がした。 「悪ぃな・・・けど邪馬人だっていけないんだぜ?いきなり・・・オレの前からいなくな るから・・・」 殺したのはオレ。 望んだのは邪馬人。 貴方を殺したこの腕はまだ痛むけれど。 「やっと来れた・・・」 もう、邪馬人はどこにもいない。どんなに泣き叫ぼうが還ってこない。 やっと認めることができた。 「やっと、気付いたんだ」 邪馬人の最期の言葉、その意味。 「やっと分かった・・・」 邪馬人はオレに殺されて、それでも嬉しかったんだな―――――― 『ありがと、な・・・』 あの時は分からなかったその、意味。 それを教えてくれたのは銀次だ。 「邪馬人、オレ今あんたじゃない奴と一緒にいるよ」 邪馬人を失って、もう誰かを傍に置くことなんてないと思っていた。 けれど銀次は、ただそこにいるから。 前からそうであったかのように傍にいるから。 自然と、蛮の中に入り込んでしまったから。 「邪馬人は、怒るのかもな」 それとも拗ねるのだろうか、子どものように。 「でも、駄目なんだ、もう。あいつがいねぇと・・・それが当たり前になっちまったか ら」 邪馬人を忘れた訳では無くて、邪馬人を忘れたい訳でも無くて。 邪馬人とは違うところに、もう銀次が入り込んでしまったから。 だから――――― 「銀次といても、いいって言ってくれるか・・・?」 段々と俯いていく顔。沈んでいく言葉。 泣きそうな顔を、誰かに見られたくは無くて。 でも許してほしくて。 「今は、銀次といたいんだ・・・」 消え入りそうな声でそう告げる蛮。 邪馬人を殺した自分が幸せになるなんて許されないと思っていた。 けど、邪馬人はそんなことを望んでいた訳じゃ無いと知ったから。銀次が、教えてくれた から。 「あんたはあんたで、銀次は銀次なんだ・・・どっちも、なんて、オレの我が儘か・・・ ・・・?」 そう言った、瞬間。 ――――辺りを暖かい風が包み込む。 「・・・邪馬人――――?」 蛮の声に応えるように、風が優しく蛮の頬を撫でる。 『泣いてんじゃねーよ・・・ったくお前は泣き虫だなぁ』 聞こえないはずの声が聞こえる。ここにいないはずの邪馬人は、まだ“ここ”にいる。 「大丈夫だよ・・・邪馬人のことは、オレが忘れないから――――」 だってまだ、お前に伝えたいことがあるんだ。 伝えられなかった、最後の言葉。 あの世で教えてやるよ。 「だから・・・」 伝えられなかった言葉は、生きている間も、死んでからも、オレが連れて行くから。 必ず邪馬人に届けるから――――― 「だから、オレが往くまで待ってろ、邪馬人」 待ってくれている奴がいるなら、ちゃんと生きてみようかと思う。 「あ、蛮ちゃんおかえり〜」 「・・・おぅ」 部屋に戻ると、銀次は蛮が出ていったときと同じ場所で同じように寝そべっていた。 「・・・お前あれからずっとそうしてたのか?」 「何だよー蛮ちゃんのこと待ってたんじゃん」 ―――――待ってくれている奴がここにもいるから。 「あっそ」 「あー何その返事!待っててもらって嬉しかったんなら素直にそう言いなよー!」 あんたのとこに往くのは少し遅くなるかも知れないけど―――― 「あーはいはい、それはそれはどうもありがとう」 「うわー何!?何なのその態度!やっぱりあんた訳分かんねぇ!!」 やっぱり、銀次と邪馬人は全然違うから。 また、逢いにいくよ。 代わることのない、あんたに逢いに―――――― |
最終話です!長かった!(書いてる期間がね/笑) と言ってもまだこの時点であと1話、書いていない話がありますが。まぁ、うん。 ラストは邪馬人に逢いに行く、っていうのは最初っから決めてました。予定通りにならなかった話も微妙にあるけどこれだけは譲れない!ってことで(笑) やっぱりね、自分で言うのもあれですが、このシリーズはラストレターの曲を(歌詞だけでも!)知っている方がいろいろとおもしろいかと思われます。(パクリだと言われればそれまでな訳ですが・・・;) ぜひぜひ聴いてみてくださいませなv |