優しい君に、いつか伝えたかったことがある。
もう2度と言えないけれど。
初めて会ったときからずっと、愛してるよ。




言葉なみだ






心臓がまるで自分の物ではないかのように激しく脈打っている。
オレは今どこに居る?
何を考えている?
何を考えればいい?
思い出がよみがえる。
初めて会った時のこと。
想いを分かち合ったこと。
――――運命だと思った。
これほどまでに魅かれる相手は1人しかいないと思った。
なのに。
こんなことに巻き込んでごめんな・・・
懺悔するように瞳を閉じる。
耳に届くのは無機質な呪文。
その儀式めいた響きの中に紛れ込む、微かな震え。
ああ、なんて美しい黒髪の魔女。
その瞳に涙をいっぱいに溜めて、それでも約束を守ろうとしてくれる。
優しい優しい、哀しい人。
最期まで一緒にいてやりたかったけれど、それはもう叶わない願いだから。
せめて最期まで忘れないでいて。
お前の一番はオレじゃなくていいから。
どうか、忘れないでいて―――――




『アイツは優しいから』
いつかどこかで聞いた言葉が、痛い。
こんな自分のどこが優しいというのだろう。
こんな、愛してやまない人を自分の手で殺すような自分は。
それでも・・・邪馬人が望むというのなら。優しくなんかなくても、いい。
邪馬人の苦しげな顔。それさえも今は愛しい。
その瞳に、自分の顔が映っている。あの瞳の中に、オレが居る。
オレは邪馬人とともに居る。
ああ、オレがやってやらねえと・・・
あの日の約束が頭を過ぎる。
こんなにも鮮明に。
何もかも覚えている。
初めて会ったときの、その交わした言葉でさえも鮮やかに。
一つ一つが大切で、忘れられない思い出。
あの約束でさえも、大切な思い出。
だから。
邪馬人――――――――っ!!
貴方を愛したその腕で、愛してくれたその体を貫こう。
『殺すことと愛することは、似てるな』
――――今やっと、その言葉の意味が理解った。
似てる。
愛することが外なら、殺すことは内。
貴方の肉を切り裂いて、温かく柔らかなその体に入り込む。吹き出した血を、浴びる。
ほら、殺すことは内まで入ることだ・・・
心臓の音が酷く近くて、まるで全身から鼓動が聞こえているよう。
この音は何の音?
この音は誰の音?
鼓動は今、1つに交わって・・・――――
アア、ウルサイ。
考えたくなんかないことばかりが澱んだ意識の中を渦巻く。
何もかもが煩わしい。
今目の前にあるのは何だ?
何も考えたくない。
何も分からない。
頭の中が、真っ白になる。


「ありがと、な・・・・・・」


真っ白になった世界に、1つの言葉が入り込んだ。
これは誰の声?
これは誰の言葉?
これは・・・
「ぁ・・・・・・っ」
これは、邪馬人の最期の言葉。
目の前に居るのは、オレの愛した人。愛している、人。
聞こえないほどに小さく掠れた声で。
きっともう何も映していない空ろな瞳で。
今、何て言った?
どうして貴方は、微笑むの――――
夢だったのかもしれない。蛮の願望が見せた、一瞬の幻だったのかもしれない。
けれど確かにその瞬間、邪馬人の声が聞こえた。
一筋の涙を流しながら、蛮に優しく微笑いかけた。
そう思った瞬間、1つの感情のみが蛮を支配した。
『イヤだっ――――!!』
何がイヤだとか、もうそんなレベルではなくて。
邪馬人がいなくなってしまう。
邪馬人を、失う?
血の臭いと、冷たくなった体と。
邪馬人の心臓を貫いた、血まみれの腕と。
蛮は微笑っていた。
声もなく涙を流しながら、それでも微笑っていた。
微笑うことしかできなかった。








遠くから、声が聞こえる。
――――――キっ!アニキっっ!!」
そこに横たわる、邪馬人だったものに縋り付いて泣き叫ぶ声。
断片的に耳に残る言葉。
どうして――――
誰が――――
――――誰が?
――――・・・オレが。

オレが、殺した。
この愛しい人を。
「オレが・・・・・・殺したんだ・・・・・・――――
誰かが何か言っている。
オレはそれに答えなきゃいけないはずなのに、その声がどうしても聞こえてこない。
だって、離れないんだ。
アイツの最期の言葉が。
耳が・・・痛い・・・




『ありがと・・・な・・・・・・』




「兄貴ーーーーーーっっ!!」
邪馬人だったものに、縋り付いて泣きじゃくる卑弥呼。
けれどそれはもう、ただの冷たい亡骸で。
もう、彼がオレに微笑いかけてくれることは、ない。
邪、馬、人・・・・・・
―――――――
蛮の呟きは誰にも聞かれることのないまま、夕闇の奥に飲み込まれ、砂嵐とともに消えていった。
そして彼はそっと部屋を去り、もう2度と、戻ってくることはなかった。









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ここでやっと、ラストレターの歌詞が出てきました。最後の「夕闇の奥に飲み込まれ、砂嵐とともに消えていった」の辺りがそんな感じです。これを、書きたかったのです。このシリーズは。


順不同にUPしているので、肝心の2人が約束するときのお話がまだUPされていないのですけれども・・・
っつーか下書きすらもできていないのですけれども・・・
いろいろあって(ぶっちゃけこの↑話が長すぎて)下書き段階でこの話の前にくっついていた部分をそっちの、約束のお話に混ぜることにしました。
そのせいでタイトルも変更するはめになったり。
というわけで本来はこの話のタイトルが「約束-ねがい-」でした。そっちの方がいいと思うんだけど・・・事情により。うぅん;;



2005/2/10


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