3日やる。それでケリつけてこい。 そう言い残して蛮は無限城を去った。 ――――3日後に、銀次を奪いに来る。 世界 銀次は迷っていた。 無限城を出ることをVOLTSのみんなに話すか、否か。 とはいってもすでに四天王の内2人にはバレてしまっており――――というか銀次が自分から話したのだが――――そのことによって自分がここを抜けることがVOLTSにとってどういう意味を持つのか思い知らされたばかりなので、何も言わずに出て行くという考えはなかった。 (でも・・・どうやって話せば分かってもらえるかなぁ・・・) できればみんなには快く見送ってもらいたい。けれど四天王の2人ですら、理解ったけれど納得はできないという態度をとっている以上、簡単に説得できる相手でも人数でもないことは明らかであった。 「・・・よしっ」 しばらく黙り込んで何やら考えていた銀次だったが、何か思いついたのか、一言呟くと決意を秘めた瞳でその場を後にした。 「・・・・・・」 3日が経ち、約束通り無限城に再び現れた蛮が目にしたものは、ボロボロになった銀次の姿と、それ以上にボロボロになった少年たちの姿だった。 「・・・何だってんだ、一体・・・」 ケリをつけろと言ったのは自分だが、まさかこんな状態を見せられるとは思っていなかったため、自分の選択が間違っていたのかと珍しくも不安になる。 「あれ・・・?もう3日経った、のか?」 蛮の姿を見つけ、ほっとしたようにその場に仰向けに倒れ込む銀次。 「へへ・・・タイムリミットだ・・・」 その呟きを聞いて、周りの少年たちも口々に悔しげな声を漏らした。 事態が飲み込めない蛮は、銀次の頭の横に立つと呆れ顔で銀次を見下ろした。 「一応聞くが、何やってんだお前」 「決死の戦い」 肩で息をしながらも、嬉しそうにVサインをしてみせる。 何が何やらさっぱり分からないが、どうやらケリをつけることはできたらしい。 「へっ」 蛮は銀次に微笑みを返すと、手を差し出して銀次を立ち上がらせた。 蛮の手を取った銀次はそのままくるりと無限城の方へ向き直り、思い切り息を吸い込んだ。 「奪い屋が来たのでオレの勝ち!オレはここから奪われます!」 そう叫ぶと今度は蛮の方を振り返り満足そうに笑ってみせた。 そんな銀次の頭をがしがしと揺すり、蛮も笑う。 「わっ、何すんだよ痛いって!」 嬉しそうな銀次の様子に、誰もが認めざるを得なかった。 銀次はアイツといたいのだと。 だからここを出て行くのだと。 「行くぞ!」 「うん!」 堂々と、その奪い屋は銀次を無限城から奪っていった。 奪い屋としての最後の仕事を、見事に成功させた。 「これから、どうするんだ?」 しばらく歩いたところで銀次がポツリと尋ねた。 「奪い屋は、もうやらないんだろ?」 「そうだな・・・」 銀次となら新しく始められるかもしれないとも思いながら、銀次の問いを肯定する。 奪い屋をやめたからといって特に他にやることがあるわけでもない。 そういや考えてなかったな・・・と思考を巡らす蛮に、銀次が1つの提案をした。 「あのさ、やることが決まってないんだったら、今度は奪われたものを取り返す仕事をやってみるってのはどう?」 「奪われたものを取り返す?」 「そう。オレさ・・・奪われるってことがどういうことか分かってなかったんだ。あんたが言った“ケリ”ってのも、初めは何のことか全然分からなかった」 それが分かったのは実際に自分が奪われることになってから。 仲間に引き止められて、その必死さを見て、初めて奪われることの大きさを知った。 自分はよくても奪われる側はそう簡単に納得なんてできないのだということを、初めて思い知った。 「だから・・・オレはもうあそこには戻れないけど、代わりにいろんな人が奪われたものを取り返してやれたら・・・って、ちょっと思ったんだ」 穏やかにそう告げるその顔は、無限城の“雷帝”とは別人のようで・・・蛮はなんとなくその眼を見ていられなくなった。 「・・・いいんじゃねぇの?奪い屋ならぬ奪還屋ってとこか?」 「奪還屋・・・」 蛮は先程感じた言い知れぬ不安を振り切るように笑いながら言う。 銀次も嬉しそうに笑い返した。 「チームの名前とか決めねぇとな」 蛮がぼんやりと漏らした言葉は、いずれGetBackersの2代目に出会う時まで引き摺ることになるのだが・・・それはまた別の話。 後の3代目GetBackersは、確かにこの時この瞬間に結成された。 「チームの名前もだけど、とりあえず呼び名を決めないと不便じゃない?」 呼び名を決める、という言いように些か疑問を覚えたけれど、確かにそういえばまだ自己紹介もしていないと今更に気付く。 「言われてみりゃあそうだな・・・」 名前も知らないというのに、どうしてこんなに肩入れしちまってるんだろうなと、どこか穏やかな感情が蛮の胸を過ぎる。 それは銀次も同じなのか、2人は顔を見合わせると同じように笑った。 「オレ、天野銀次」 「オレは・・・美堂、蛮だ」 自分の名前をこんなに安らいだ気持ちで伝えることは初めてかもしれない。 何しろこんなにもゆっくりとした時間を過ごしたことは今まであまりなかったのだから。 「みどう・・・ばん・・・・・・」 噛み締めるように呟く銀次。 何か気恥ずかしい感情を覚えながら、蛮はその様子を見ていた。 「うん、これからよろしくね!蛮ちゃん!」 にっこりと笑って言う。 蛮はそれまでの穏やかな心情から一転、心なしか青ざめすらしながら銀次の言葉を繰り返した。 「蛮・・・ちゃん、だぁ・・・?」 「え?何かおかしい?蛮ちゃん」 銀次に悪気はない。悪気はないのだけれども・・・ 呼び名を決めるとはこういうことか・・・と、蛮は少しばかりこの“世間ズレした”少年を無限城から奪ってきたことに後悔を覚えた。 「ねぇどうしたのさ、蛮ちゃん?蛮ちゃんってば・・・」 蛮の表情が変わった理由が自分の呼び方にあることにも気付かずに銀次は“蛮ちゃん”と繰り返す。 耐えられなくなった蛮が叫んだことは言うまでもない。 「蛮ちゃんって呼ぶな!!ボケ銀次ぃ!!」 「あっ何、その呼び方!なんか納得いかないんですけどー」 「納得いかないのはこっちだっ!!」 そうやって言い争う2人の間を、暖かな風が吹き抜ける。 こんな光景が日常になるまでにそう時間はかからなかった。 ――――刻の歯車は動き始めた どう動かすかは彼ら次第―――― |
書き終わったー!! ということでこのラストレターシリーズ本編(本編?)において最後にUPしたのがこの話です。第二章から書き始めてるのに結局最後まで書き終わらなかったのも第二章なのかと思うと、なんだか複雑です。 ひと通り終わったから書いちゃいますが、このシリーズは銀次の口調をどうするかですごく悩んだシリーズでもあります。完璧雷帝バージョンだと口調荒いし、VOLTS時代ってあんま描かれていないから難しいし、でもVOLTS時代に「カヅっちゃん」とか呼んでたわけだし、原作1話の頃って口調違うし、今のパターンだと甘ったるすぎるし・・・といろいろ考えた末に辿り着いたのがこんな感じの中途半端口調です。なのでこのシリーズの銀次は半分オリジナル。話自体がまず原作無視してるから別にいいかなーって感じで。気に食わなかったらごめんなさい。 ところで、蛮ちゃんが一旦無限城を去ってから銀次を奪いに来るまでの空白の3日間。この↑話の下書きを書く際には微妙にそれも含めて書いていたのですが・・・例の如くそれでは量が多すぎるのでーと、ばっさりカットしてしまいました。いつか番外編としてUPできたら・・・いいなぁ・・・(書き終わってないんじゃん。) |