必要なもの






初めて出会ったあの時から、ずっと貴方に惹かれていた――――


「ばーんちゃん!」
満面の笑みをたたえて蛮に抱きつく銀次。
「んー?」
一方の蛮は珍しく読書に勤しんでいる様子で、銀次の方を見ることもなく生返事で応える。
これは銀次としては面白くない。むぅっと膨れながらも蛮の興味を自分の方に向けようと必死のようだ。
「ねぇねぇそれ何の本?」
「あ?あぁ・・・波児に借りたんだけどよ、戦記もの。・・・お前も読むか?」
意地の悪い笑みを浮かべながら思いついたように聞いてくる。
答えの分かりきった質問に一瞬むくれるが、蛮が自分の方を見てくれたことに気分を良くし、おどけた調子で答えを返す。
「オレ本なんて読めないもんっ。蛮ちゃんが読むようなのなら尚更。・・・蛮ちゃんよくそんな文字ばっかりの本読めるよね」
「お前も少しは文学ってもんを知れ」
「そんなの知らなくても生きてけるもん」
呆れたような蛮の言葉にぷいっと横を向きながら答える銀次。
その言葉に、蛮がぴくりと反応を見せた。
「蛮ちゃん?」
蛮の変化には人一倍敏感な銀次がそれに気付かないはずもなく、心配そうに顔を覗き込む。
「何でもねぇよ・・・」
銀次から顔を背けるように呟く蛮だが、ホント?と念を押されるように聞かれて、観念したように続きを漏らした。
「お前にとっては、必要ないものなんだな、文学ってのは」
それは銀次に問いかけているような、独り言のような言葉だった。
「生きていくのに、これが必要とか、これはいらねぇとか・・・そうやって淘汰されたものを欲しがる奴もいて、だから世界は上手く回るんだ」
どこか遠くを見るように語る蛮の言葉を、おそらく銀次は理解できていない。
銀次に分かるのは、蛮の不安げな表情だけだ。
「前に波児の奴も言ってたな・・・『コーヒーなんてモンは、なくても人間生きていける。飢えた時に必要ないもんだ』ってよ。それでも、波児はコーヒー売って生活してるし、コーヒーを飲みに来る客だって、いる」
蛮がゆっくりと顔を上げた。
銀次と蛮の目線が重なる。
「例えば、オレが必要としているものはお前には必要のないものかもしれねぇし・・・」
蛮の手がおもむろに銀次へと伸びる。
「お前に必要なもんは、もっと別のもんなのかもしれねぇ」
銀次は、自分を求めて空を彷徨う手をそっと手に取った。
傍から見たら滑稽な光景かもしれない。それでも、その時の2人にとっては儀式にも近い神聖な感覚があった。
「お前には、必要か?」
真っ直ぐに銀次の目を見て問う。
何を聞かれているのかも分からない。それでも分かる。
蛮は今、何かを怖がっているのだ。
だから――――「何が?」とは、聞けなかった。
「オレ、馬鹿だから、よくわかんないけど・・・」
銀次は頭をフル回転させて言葉を選ぶ。
「オレに必要なのは、そりゃいっぱいあるけど、一番は蛮ちゃんだよ。蛮ちゃんがいなかったらオレ多分ここにいないし、蛮ちゃんがいなくなったらきっとオレも消える。別にそうしようって思ってるわけじゃないけど・・・多分、そうなるよ。蛮ちゃんがいなかったら今の俺はないんだ。それに・・・」
一呼吸置いてゆっくりと伝える。
「蛮ちゃんがいなかったら、GetBackersだってできないでしょ?」
銀次の問いを受けて沈黙が訪れる。果たしてこの答えは合っていたのだろうか。
「蛮ちゃん・・・?」
蛮が一瞬、泣きそうな瞳を見せる。
間違えた・・・?
銀次の胸を不安が過ぎる。
それでも、間違ったことは言っていない。嘘なんて一つもない。
蛮がいなければ自分はここにはいられないのだ。そうだという確信も何もないけれど、きっとそうなんだ。
「・・・そっか」
銀次の不安は、蛮の言葉によって掻き消された。
「サンキュ」
優しい声と、優しい笑顔。
間違っていなかったのだと思わせてくれる笑顔。
その笑顔に、銀次は胸が締め付けられた。


――――ねぇ蛮ちゃん、知らないでしょ。
オレ、本にだって嫉妬できるくらい蛮ちゃんのこと好きなんだよ?
オレ・・・蛮ちゃんのこと、大好きなんだよ?
ねぇ、知らないでしょ・・・?









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碧翠史上一番最初に書いたGB小説を書き直したものです。下書きの上に「いつかリベンジ」と書いてあるのでリベンジしてみました(笑)



2006/3/16


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