バレンタインデー 「よー銀次〜」 GetBackersを結成し、貯まらないながらもちまちまと集められた金で“マイホーム”なるものを構えてから早数か月。 アパートの一室であるマイ ホームで迎えたクリスマス、お正月・・・そして今、またしても恋人達にとってのメインイベ ントとも言える日がやってきた。 「ハッピーバレンタイン」 にやりと不適な笑みを浮かべ ている蛮の手の中には、蛮には少々似つかわしくない可愛らしい包みが見受けられた。透明なその包みの中には、手作りと思わしき一口サイズのハート型のチョコが5、6個 ほど綺麗にラッピングされているのが見える。 「お帰り〜蛮ちゃーん!」 嬉しそうな顔をした2頭身の生き物が蛮に飛び付く。その様子に内心よしよしとほくそ笑む蛮。 (だよ な〜なんせこのオレ様からチョコが貰えるってんだからな〜幸せもんだぞ?なぁ銀次ぃ) などと、多少自意識過剰な節もある蛮の思考回路は、すでにその見返りのことを思い描きつつある。 「あの、蛮ちゃん」 「ん?」 真正面から蛮を見据えて言いづらそうに口ごもる銀次。 恋人のこんな反応を見せられては、否が応でも蛮は期待してしまう。 (くるか?さぁて何をしてくれるのかなぁ銀次くんは) ニヤニヤと、次の言葉を待つ蛮。 だが、世界はそう上手く回っているわけで はなかった。 「ばれんたいんって何?」 ――――銀次と蛮が出会って1年目のことであった。 「お菓子会社の戦略?」 「そうだ!こんな馬鹿騒ぎやってん のは日本だけだ!」 バレンタインを知らない銀次。その銀次に律儀に一から教える蛮。 適 当なことを言って言い包めてしまえば銀次に何をするもして貰うも思いの儘なのだが、そ れが出来ないのが蛮の性格なのであった。 「好きな人にチョコをあげればいいの?」 「恋愛感情で好きな奴に、だ」 蛮はひた すら恋愛感情で、というところを強調する。 告白代わりの説教と言ったところか、それと も他の奴にチョコをあげるなという牽制のつもりか。 「じゃあオレ、蛮ちゃんにチョコあげ なきゃね!」 自分の言葉を銀次がどこまで理解しているのかは分からないが、とりあえず バレンタインの趣旨は間違いなく伝わったようである。 「ったって・・・おめー今からじゃ用意 出来ないだろ」 「・・・!ど、どうしよう蛮ちゃん!」 銀次の慌てふためいた様子を見ながら ため息をつく蛮。 「だからオレがこうして持ってきてんだろ」 そう言いながらチョコの入った袋を指差す。 「そっかぁ蛮 ちゃんありがとっ!」 そう言いながら袋を手に取る銀次。 「はいっ蛮ちゃん!バレンタイ ン!」 言いながら蛮のあげた袋を差し出す銀次。 ・・・違げーだろ・・・ そう心の中でツッコミながらがっくりと肩を落とす蛮。そんな蛮を見て銀次は不安げに首 を傾げる。 「違った・・・?」 「違うも何もそれはオレがてめーにやるっつったやつだろー が!!」 「あっそうか」 ・・・そうかじゃねーよ・・・ またしても心の中でツッコミを入れながら涙する蛮。哀れだ。 「そーいえば さぁ」 「あ?」 話題を別の方向に持っていかれるのは避けたいのだが、蛮の思惑が銀次に通用するはずもなく。 「蛮ちゃんこのチョコどうしたの?」 ・・・そ れでも話題がチョコから離れなかったのはまだ幸いか。 「あー・・・夏実ちゃんに貰ったんだ よ」 「夏実ちゃんに?」 「あぁ・・・」 言いながら、当該少女の行動を蛮は細かに思い起こした。 「ばーんさんっ」 「よう」 買い物を終え、帰り道をぼんやりと歩いていた蛮に、夏実は意気揚々といった感じで話しかけてきた。 「お買物ですか?」 「あー、まぁな・・・」 「今日はバレンタイン ですものねー」 どこか含みのあるその言いように何かを感じずにはいられなかったが、とりあえず蛮は当たり障りのない言葉を返すことにした。 「そうだな・・・」 「蛮さんは、チョコレート買いました?」 「なっ・・・!」 夏実の唐突と言って良いほどの質問に、蛮は思わず言葉を詰まらせる。 「・・・お金無いですもんね・・・」 「うっ・・・」 痛いところを突かれ、よろよろになりながらも、蛮は必死に夏実の言葉の意味を理解しようとした。 「でも大丈夫です!そんなこともあろうかと私が 準備しておきました!」 「え?」 しかしそんな蛮の思いも虚しく、夏実は次々とわけの分からない言葉を発していく。ある意味銀次よりタチが悪い。 「じゃーん!!ほら、ちゃんと手作りですよ〜。味の方 もばっちりです!!」 そうして夏実が取り出したものは、一口サイズのハート型のチョコレートが綺麗にラッピングされている小さな包みだ。 「・・・は?」 「ほらぁ」 夏実はそれを蛮に押し付けようとする。 「いや、だってこいつは夏実ちゃんが誰かにあげるやつじゃ・・・」 当然の疑問を浮かべながら、蛮はやんわりとチョコレートを押し戻す。しかしそんなことでめげる夏実ではなかった。 「私の 分はちゃんとここにあります!ね!」 自分用のだというチョコを鞄から取り出して見せる。確かにそれは蛮に押し付けようとしているものより気合いが入って作られているように見えた。 (今・・・波児って文字が見えた気がするのは気のせい か・・・?) と、そんなところを追求してもいいものかなどと蛮が迷っている間に、夏実はチョコを蛮の手に渡してしまう。 「これは蛮さんが銀次さんにあげる用のチョコですから、遠慮しないで貰ってく ださいっ」 ここまでされては、断りようもない。元々、買いたいと思ったところで買う金が無いと思っていたのは事実で、誰かが恵んでくれるというのなら、それを断る筋合いは無い。 「あ・・・あぁ・・・ありがとよ・・・」 「いぃえ〜」 夏実は軽く手を振ると、満足げに笑って去っていった。呆然と手の上にチョコを乗せている蛮を見向きもしないで。 (・・・あの最後の笑顔が気になるんだよな・・・このチョコ、変なもんとか入ってないよな・・・?) 「蛮ちゃん?」 思い返してみると、やはり何かおかしいような気がする。本当にこれを貰ってよかったのだろうかと、今更ながらに考えてしまう。 (あの子は時々さりげなく恐ろしいからな・・・) しかし考えたところで夏実の思考など蛮には到底理解できるはずも無く。 「蛮ちゃんってば!」 「なん だよ!」 思考を中断されて反論する蛮。だがすぐにその反射的な行動を後悔することになる。銀次が泣きそうなほどに落ち込んでいる様子が見て取れたからだ。 「ごめんね、蛮ちゃん・・・」 こ ういうときの銀次に蛮が勝った例しは一度たりとも無い。 「なんで、謝んだよ・・・」 「だってオ レ知らなくて・・・蛮ちゃんにあげるチョコ用意してないんだ・・・」 そんなことは分かっている のだが・・・銀次はそれが蛮を悲しませることだと思い込んでいるようだ。 「ごめんね・・・・・・」 謝 り続ける銀次。その様子に呆れたような優しい笑顔を向ける蛮。 「ばーか。んなこと分 かってんだよ」 「だって・・・」 「だから初めから言ってんだろ・・・?」 そう言いながらチョコ の入った袋に手を伸ばす。 「オレがお前にチョコをやるってよ」 言い終わると同時におもむろに袋からチョコを取り出す。ハート 型の、一口サイズの甘い甘いチョコレート。 「ハッピーバレンタイン、銀次・・・」 言いなが ら銀次に口付ける。甘い甘い口付け。 「うまいかよ?」 「うん・・・」 不適に笑ってみせる 蛮と、対照的に顔を赤くして俯く銀次。 ハッピーハッピーバレンタイン。 「ホワイトデーにはお前からくれよ?」 「・・・ほわいとでーって何?」 |
話自体は旧携帯の頃だから・・・2年前?に作りました。ほとんど書き直してないです。 夏実が何を考えていたのかは・・・まぁご想像におまかせします。あえて言うなれば、夏実は腐女子です。(←という設定の下に作られた話です/笑) それにしても蛮ちゃん「うまいかよ」って・・・それ夏実ちゃんが作ったチョコだよ?(笑) |