責任 「こうしてると、昔に戻ったみたいだね」 ふいにアルが言った。 「昔?」 「ボクがまだ鎧姿で、兄さんの背が今より小っちゃかった頃」 「小っさいゆーな・・・」 オレの反論に、アルは不可解な表情を返す。 「・・・やっぱり、違うかも」 違う、とあえて言うアルの意図が掴めない。 アルは言葉を続けた。 「なんか・・・」 「何だよ」 「同じようでも、違うんだね。年だって離れちゃったし」 「そういえばそうだな」 そういえば、そうだ。一つ違いの弟は、再会してみたら五つ違いの弟になっていた。 確かに・・・違うのかもしれない。以前のアルとは。“何が”というわけじゃなくて、だから、いろいろ、違ってしまっている。昔と今では。 「いろんなものが変わっちゃったね」 そうだ、住む世界だって違う。周りにいる人々だって、違う。 けれど・・・ 「全部が全部変わったってわけでもないだろ」 変わらないものだってある。だってやっぱりオレはアルの“兄さん”で、いくつ離れてたってアルはオレの弟だ。それは変わらない。 「うん・・・」 「・・・どうしたんだ よ?」 アルの返事は曖昧だ。一体何がそんなに引っ掛かるっていうんだ? 「・・・うん、多分、悔しいんだと思う」 「何が」 「ボクの知らない時間があることが」 淡々と告げられる言葉は、どこか不安を誘うものでもあった。 アルは続ける。 「その知らない時間に別の人がいることが、悔しいんだ」 オレは何故か言葉を失った。 何故だろう。その続きを聞きたいような、聞いてはいけないような・・・不穏な感情がオレを板挟みにする。 そんなオレの傍らで、アルがぽつりと言った。 「ボクがこっちに来たから、死んじゃったのかな」 「何の話だよ!」 「わかるでしょ?」 「っ・・・」 考えたくない。それは、考えたくないんだ。 けれどアルはやめない。言わないではいられないのだ、きっとアルも。 「だから・・・こっちの世界のボクの話」 「あいつとお前は関係ねぇよ!あいつはあいつ、お前はお前だろ?!」 声が自然と強まる。 聞きたくない。そんなことは聞きたくない。 「でも、兄さんだって時々ボクにあの人を重ねてるじゃないか」 「それはっ・・・」 「本当に違うって言い切れる?だってここはボクたちの世界じゃなかったんだよ?!それなのにボクがこっちに来ちゃったから・・・」 アルの顔が泣きそうに歪む。 きっと、オレも同じだ。 こんな言い合いは不毛だ。だって、もうそこに 意味などないのだから。 「門を開いたのは、ボクの責任なんでしょう?」 「お前の、じゃない。オレ達の、だ」 以前にもよく繰り返した言葉。その時は―――――それを言ったのはアルだったけれども。 「でも、やっぱりボクの責任だよ。それって、ボクがハイデリヒさんを殺・・・」 「言うなっ!!」 思いたくない。誰かのせいだなんて。 誰かのせいにしたら、そいつを責めてしまう。 嫌だ。嫌なんだ。 アルフォンスの死が誰かのせいだと認めてしまえば、この哀しみをぶつける対象がそこにあったら、オレはもう立っていられない。 そいつを責めて、自分を責めて、泣いて、泣いて。 立っていられなくなる。弱くなる、今以上に。 弱くなりたくはないんだ。アルフォンスのように、強くありたいから。 泣きたくないんだ。 アルフォンスの死を、オレはまだ受け入れきれないでいる。そんな弱い自分も、認めたくないんだ。 少なくともアルの前では強くありたい。せめてアルの前だけでは。 アルフォンスに見せたような弱いオレを、アルには見せたくないんだ。 アルとアルフォンスは違うから。 「お前の、せいじゃない・・・」 そう一言搾り出すのが精一杯だった。 誰のせいでもない。仕方、なかったんだ。 そう思わなければ足元から世界が崩れていく気がした。 この、夢の中にいるかのような現実の世界が、崩れていく――――― この世界に、救いはあるだろうか |
救いのない話ですね また。救いがないのはアニメハガレンの基本だと思っています(え) なんとなく、私はいつも短編は短編としてその場限りの話を書いているつもりなのですが、これはなんとなく『私のカケラよ力強く羽ばたいてゆけ』と繋がっているような気がしないでもないです。特にアルが。 なんとなく、ですけれどもね。 |