アルが17歳の誕生日を迎えた。






面影




この数年でオレ達はこの世界での生活にもすっかり慣れ、昔のオレのようにあちらの世界を求めることもなくなっていた。
だから余計に、この世界で出会った人や起こった出来事には敏感になり、オレ達はもうこの世界を唯一の世界として生きるようになっていた。
「誕生日、おめでとうな」
「ありがとう、兄さん」
弟は声変わりをし、随分と低い声になった。身長も、非常に悔しいことにオレより頭一つ分は高い。
―――――まるで誰かを見ているようだ。
「悪ぃなアル、今年も何も用意してやれなくてさ」
せっかくの誕生日なのだから、本当ならプレゼントにケーキで祝ってやりたいところなのだけれど・・・生憎オレ達の家計はギリギリの線を彷徨っていて、少しの贅沢も厳しい状況下にあった。
「気にしないで。ボクも用意できなかったし、兄さんの誕生日のとき」
「それこそ気にすんな。お前の方が年下なんだからよ」
「それって年下差別ー」
そう言ってむくれるその表情はまだあどけなく、そういうところは似ても似つかない。
「ボクだってもう記憶は戻ったんだから、気持ち的には21歳だよ」
「でも記憶のなかった分を抜かしたら18歳になるんじゃないのか?・・・あれ?19か?」
「何だかややこしいね」
ふとアルが目を細めて笑う。
その表情が・・・とても、似ていて。
オレは思わずあからさまに動揺してしまった。
「兄さん?」
「っ、あ、あぁ・・・」
嫌でも思い出される。
いや、忘れたことなんかない。
アルが成長するにつれて、似ていなかったところまで似てくる。
声も、顔つきも、体格も。
唯一変わらずに今もその違いを表明するものは、生まれつきの髪の色と、そして瞳の色。
アルの瞳は碧くない。髪の色だってよく見ると違うじゃないか。
アルとは違う。
アルとは、違う。
昔よく繰り返した葛藤を、今また繰り返す。
立場は違うけれど。
状況は違うけれど。
「兄さん」
呼ばれて我に返る。
目の前には、複雑な表情のアル。
「・・・亡くなったあの人・・・17歳、だったんだっけ?」
言い辛そうに、けれど適確にオレの心を読み取る。
「そんなに、似てる?」
伺うように尋ねる。
オレには、否定することはできなかった。
「・・・・・・似てるさ。お前だって見てきたろ?あっちの世界と同じ顔した人とか、さ」
言いながら今まで出会った人たちの顔が脳裏を過ぎる。
どうしてこんなに似ているのだろう。
「分かってるつもりなんだけどね・・・」
アルがふと遠くを見るような目をする。
昔、よく見た表情だ。
「・・・ちょっと、悔しいや」
「え?」
言葉の意味が飲み込めず聞き返す。
アルは一瞬こちらを伺うように目線を寄越してから、分かりやすく言葉を続けた。
「せっかく一緒にいるのに、ボクがいると兄さんはあの人を思い出しちゃうんでしょ?」
「アル・・・・・・っ」
「辛い?」
誰かに誰かを求めることは辛さを増すだけだとあんなに分かっていたはずなのに。
オレはまた同じ過ちを繰り返している。
「お前の方が、よっぽど辛いだろ・・・?」
辛いはずだ。辛かったはずなのだ。
それなのにオレは求めることをやめない。
「・・・あの人を見て、ボクを思い出すことはあった?」
アルはオレの質問には答えず、質問を重ねてくる。
答えは簡単だった。
「あった?なんてもんじゃねぇよ。ずっと・・・あいつの中にお前を見てて、オレは、ずっとあいつを傷つけてたんだ」
言葉に皮肉が混じる。
どうしてそんな風にしかしてやれなかったのかと、後悔しか生まれてこない。
「それで後悔したから、今度はボクの中に彼を見るの?」
「っ・・・・・・」
はっきりと言い当てられて言葉を失う。
後悔すると分かっているのに、何故やめられないんだろう。
「兄さん」
アルが求めるようにオレを見る。
「ボクは、ボクだよ」
今にも泣き出しそうな顔でオレを責める。
同じ、その顔で。
「アル・・・・・・っ」
オレも、泣き出しそうな顔をしているのだろうか。
けれどその涙は許されない涙だ。
罪はオレにある。
「兄さん・・・・・・」
そんなオレの思いを見透かしたようにアルが言葉を続けた。
「ボクは、別に兄さんのこと責めてるわけじゃないんだ」
分かって欲しい、大丈夫なんだと目が告げる。
「忘れて欲しいとか、ボクだけを見て欲しいとか・・・そんなこと言わないし、言えない。けど、ボクのことも・・・今ここにいるボクのことも、忘れないでいて欲しいんだ」
そうまっすぐに告げられた言葉が優しすぎて、そこにあるはずの嘘が見えなくなってしまう。
嘘があるはずなのに。見なければいけないはずなのに、オレはそれを見つけることから逃げた。
「アル・・・・・・」
甘えてばかりではダメだと思う自分と、このままずっと甘えてしまいたくなる自分がいて、その両方がオレを責めたてる。
どちらを選べばいいのかは分かっているはずなのに、オレはきっとそれを選べない。
だって、やっぱり、忘れられないから。
許される日をずっと待ち望んでいたオレの心は、間違った許しでさえも受け入れて手放すことができない。
アルがオレを許す限り。
きっと、手放せないんだ。









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携帯で書いてて行き詰っちゃった作品を形を変えて作り直してみた・・・ら、エドが立ち直らないまんま終わってしまいました(あはは;)
ネタ自体は好きなんです・・・でもなんかね・・・下書きの紙をスキャンして載っけちゃいたいくらいまとまらなくて;ちょっと無理矢理終わってますが、そんななんでお許しくださると幸いです。
いかんなぁ・・・のーん・・・



2006/3/2


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