こんなのは間違ってる。それはわかってる。 それでも止められないものはどうしたらいいんだ? 擬似恋愛 「エドワードさん?」 同じ名前、同じ顔。でもこんなに声は低くない。背だって、オレより高いなんて許せねぇ。 それでも、例えば声変わりしたらこんなんなのかなとか、やっぱいつかはオレの身長なんて 軽く追い越しちまうんだろうなとか、どうしてもその一つ一つを重ねて見てる。 だってもう会えないから。生きてるかどうかだって、確かなことじゃないから。 確かな温もりがここにいないことで、こんなにも自分が弱くなるなんて考えもしなかった。 「エドワードさんってば!」 アルフォンスの声がオレを現実に呼び戻す。 アルフォンス・ハイデリヒ。アルと、弟とよく似た姿の別人。 わかってる。それはわかってるんだ。 誰もアルの代わりになんかなれないし、それでいいはずはない。 ちゃんとわかってるのに。 「どうしたの?心ここにあらずって感じだけど」 「ん・・・」 なんとなく、顔が見れなくて目線が泳ぐ。 「何だかなぁ。さっきまではあんなに素直によがってたのに」 「よがっ・・・!?」 「事実でしょ?」 アルフォンスの思わぬ言葉に、思わずアルフォンスの顔を真正面から見てしまう。 目が、あった。 それからアルフォンスは目を細めて笑いながら言った。 「なんてね。わかってるよ、エドワードさんが僕じゃない誰かを見てたってことくらい」 「なっ・・・」 アルフォンスの告げる言葉の数々に、オレは何も言えなくなる。 そうだ、とも、違う、とも、何も言えない。 「エドワードさん狡いんだもんなぁ。喘ぐふりして弟くんの名前呼ぶんだから」 「喘ぐふりって・・・」 でも、確かに言った。 『あ・・・っ、ルぅ・・・』 言った、かもしれない。覚えちゃいないけど。 でも、仕方ないじゃないか、同じ名前なんだから。 「お前のこと、呼んだとは思わないのか?」 これこそ、狡い。狡い質問だ。 同じ名前でも、そこに込められた想いが違うことには誰だって気付く。わかりきったことだ。 「そうだね、同じ名前だもんね。でも、やっぱり違うでしょ?」 その通りだ。違う。全然違う。 アルフォンスも、アルも、オレの中に確かに存在している。 似ているからといって、同じだというわけじゃない。 わかりきったことだ。 そしてそれがアルフォンスを傷付けることも、わかりきったことだ。 「結構ね、キツいもんなんだよ?他の人の名前呼ばれるのって」 アルフォンスの顔が曇る。 「あ・・・・・・」 ―――――だから、これはいけないことだというのに。 「・・・ごめん。ごめん・・・・・・っ」 言葉でなんかどうだって言える。嘘をつくのなんて簡単だ。 でも、これだけは嘘がつけない。ついちゃいけない。 オレのアルへの想いは。アルフォンスへの想いは。 「ごめん・・・・・・」 いけないとわかっていて、それでも止められないのは、オレが確かにアルフォンスを愛している から。代わりなんかじゃなく、アルフォンスをアルフォンスとして愛しているから。 それでも、アルに代えられるものがないのは事実で、アルとアルフォンスを重ねて見ている のも事実だ。 だから、止めなければいけないと思うのに、オレは謝ることしかできない。 アルにもアルフォンスにも中途半端な、誠意のカケラもない態度しかとれない。 「・・・そんなに落ち込まないでよ」 アルフォンスは優しい。 「謝るってことは、弟くんと違う僕を、好きな気持ちが少しでもあるってことでしょ?・・・そう思っていいよね?」 アルも、優しかった。 「・・・さぁな。お前を利用しようとしてるだけかもしれないぜ」 「そんなことできる人じゃないだろ」 あぁ、口調まで似てるのか。喋り方も、イントネーションも。似ているところをあげたらキリ がない。 「それにね、弟くんがいなかったらこうしていることもなかったかと思うから、僕にとっても大切な人なんだよ、アルフォンスくんは」 そうやって優しくするからオレは、いつまでたっても甘えてしまう。 「会ったこともないくせに」 「会ったこともないけどね」 そうやって、何も辛くなんかないというように笑うから、オレは見ない振りをしてしまう。 いけないとわかっているのに。 「でも似てるんでしょ?」 そりゃあ似ている。そっくりなんてもんじゃない。 「だったら鏡に向かって謝るよ。君の大事な兄さんは僕が有り難く貰っていますって」 “兄さん”―――――― アルとアルフォンスが決定的に違うところは、弟か、そうでないか。 兄さんという言葉に同じ響きはあっても、それだけは全く似ていない。 「アルとは、こんなことはしなかった。・・・アルは、弟だから」 それだけじゃないけど。 長いことアルは鎧姿だったから。食べることも眠ることもない空っぽの鎧。 そこに弟を繋ぎ止めるのに必死で、それ以上のことなんて何もなかった。 「じゃあ・・・もしかして僕って特別?」 「そりゃ、な」 特別だ。色んな意味で。アルフォンスの代わりは、やっぱりいないから。 「そっか」 アルフォンスから笑顔が零れる。 「じゃあやっぱり弟くんに感謝しなくちゃ」 「アルフォンス・・・?」 「同じ名前で同じ顔だから、エドワードさんが気にしてくれる。弟くんのおかげ」 「っ・・・・・・」 そう言うアルフォンスが嬉しそうに笑っていることが、堪らなく哀しかった。 手を伸ばして、髪に触れる。そのまま抱きしめて、耳元に口付けた。 「ごめん・・・・・・」 アルフォンスをオレから解放してやれればいいのに。 弱いオレはアルフォンスの腕を掴んだまま放せないでいる。アルフォンスも今はそれを望まな い。望まれないから、そうやって後回しにする。 そうしていった結果がどんなことになるかなんてわからないはずがないのに。 オレはアルフォンスを放せない。 そうしてまた、夜が過ぎていく――――― |
私は、この話を書いた時点ではアルフォンスのことをハイデリヒ・○○くんだと思っていました。(映画見たくせにー・・・;;) そういえば同じ名前なんだっけね。すっかり忘れてました。おかげで書き足さなきゃならない記述がいっぱいあったよ・・・(遠い目) そんなですから、アルフォンスの口調も適当です。エドすら適当(オイ;) そしてこれを書いて初めてハイエドが好きだということに気がつきました。遅い。 でも私の場合あくまでアルエド前提かな。やっぱアルエド好きだからね。 |