ひらりひらりと舞い遊ぶ、夢の中のアゲハ蝶。 貴方はどこへ行くの?いつまでそうやって彷徨うの? アゲハ蝶 「そんでその時アルがさー・・・」 ―――――最初は、いつもの夢の話だと思っていた。 「って。だから言ってやったんだよ、じゃあオレがお前の今の身長追い越すほど背高かったらどうすんだよって」 けど、そうじゃないって気がついた。 だって僕はその話を知ってる。 「そしたらアルのやつ―――――」 「“兄が弟より身長高いのは普通なんじゃないの?”」 「え・・・?」 僕はこの話の続きを知っている。彼が何て言ったのか、彼の弟が何て言ったのか。 「あ、あぁ、そう、すげぇな、はは・・・アルは、今お前が言ったのと全く同じ台詞を言ったよ」 会話が途切れる。 エドワードさんは僕が言った台詞に動揺を隠せないでいる。 弟と一字一句違わぬ台詞を言ったから。 僕が、その台詞を知っていたから―――――― それはいつか僕が繰り返し見た夢だった。 繰り返し、といってもまるで同じ夢を何度も見るわけじゃなくて、それらの夢は繋がっていたのだ。 その夢の中では僕は別の世界にいて、そう――――それはいつもエドワードさんが話している夢の世界だったのかもしれない。 僕は旅をしていた。1人ではなく、2人で。 そうだ、僕はその夢の中で誰かと一緒にいたんだ。 僕はその誰かが好きだった。すごく、すごく、好きだった。 そして、いつしかその夢を見なくなって――――エドワードさんに会ったのはそれからだ。 「忘れてたな・・・」 そんな夢を見ていたことを。その夢に、エドワードさんに似た人が出てくるということを。 もっと早くに気がついても良かったはずなのに。 その夢がエドワードさんの夢の世界と繋がっているかもしれない可能性なんて考えもしなかった。 「もしかしたら、僕は貴方の弟くんを知っているのかもしれない」 「な・・・っ?!」 エドワードさんが驚くのは無理もない。 エドワードさんにしてみれば、弟の存在を認めてもらうことは自分の世界を認めてもらう ことなのだから。 夢の世界を。僕らが夢だと笑った世界を。 「どういう・・・?」 その言葉に続くのは“意味だ?”だろうか。それとも“つもりだ?”だろうか。 「言葉のままだよ。僕は僕の夢の中で、貴方の弟くんに会っているかもしれないんだ」 あくまで可能性ではあるのだけど。 けれど彼はその可能性に賭けるだろう。弟を、認めて欲しいから。 「アルに・・・夢の中で・・・?」 「そう・・・・・・いや、“会った”っていうのは少し違うのかもしれない」 そうだ、会った、わけではない。 だって僕は弟くんの顔を知らない。どれほど似ているのか、知らない。 「会ったんじゃない・・・そうだな、夢の中で僕は貴方の弟だったって言う方が正しいの かも」 「お前が、アルだった・・・?」 「うん、僕の夢の中ではね」 僕の夢の中で、僕はエドワードさんの弟だった。エドワードさんと2人で旅をしていた。 夢の中の僕はエドワードさんが大好きだった。 今だからわかる。僕がエドワードさんに惹かれたのは偶然なんかじゃない。 僕は夢の中でエドワードさんに会っていた。その頃から、僕はエドワードさんが好きだったんだ。 「お前が・・・お前の夢の中で、アルとして・・・」 エドワードさんは何かの結論を定義づけようとしているようだった。例えそれが間違いだったとしても、それも可能性の1つであることには違いないから。 「だとしたら、お前が夢の中でアルなんだとしたら、逆も有り得るんじゃないか?」 呟くように思いついたまま喋る。 「アルも、夢の中でお前を見ているかもしれない。夢の中で、オレと暮らしてるのかもしれない」 「だったら、幸せ?」 僕も、思いついたまま喋る。何も考えないまま。 「幸せ・・・?」 エドワードさんが顔を歪ませる。泣きそうに。 こんな顔をもう何度見ただろう。 「どうかな・・・」 弟くんが夢の中で僕と同じことをしていても、エドワードさんが弟くんに会えるわけではない。 僕が弟くんに変わるわけでもない。 「でも、伝えることはできる。オレは元気だから、心配するなって」 そう言って笑う。 苦しそうに。辛そうに。 そんな顔で元気だって言われても、安心なんかできるわけないじゃないか。 「無駄だと思うよ・・・」 無意識に、残酷な言葉が口を滑る。 「夢は何も伝えてなんかくれない。現に、僕だって今エドワードさんと話しててそれを思い出したくらいだ」 「そう、か・・・」 エドワードさんの表情が曇る。 どうしてそんなに辛そうにするの?そんなに向こうの世界がいいの? 「アル・・・っ?」 ――――――気がついたら、僕はエドワードさんをこの腕の中に抱きしめていた。 「ど、どうしたんだよ?アルフォンス」 エドワードさんが戸惑っているのが分かる。戸惑って、僕の腕からどうにか逃れようともがく。 それでも僕はエドワードさんを放す気にはならなかった。 どうして、こんなに欲深くなってしまったんだろう。 夢に見ていた頃は、貴方に会えるだけで嬉しかったのに。 いや、それだけじゃない。 現実に会えたときだって、会えただけで、それだけで良かった。 いつからこんな風に思うようになってしまったのだろう。 貴方に愛されたいと、夢の世界なんか忘れて、僕と生きてほしいと。 いつから願うようになったのだろうか。 「エドワードさん・・・っ」 悲痛な響きを含んだ声にエドワードさんの抵抗が薄れる。 「アルフォンス?」 「僕はっ・・・」 うまく言葉が出てこない。 何と言えばいいだろう。何と言えば、この想いが伝わるのだろう。 「エドワードさん・・・―――――――愛してる」 「アルフォンス・・・?」 「貴方を愛してるんだ・・・」 愛してる。この世界の誰よりも、強く、深く。 もし叶うのなら、貴方にも僕を愛して欲しい。 この世界にいる間だけでもいいから。 弟の代わりでも、いいから――――― 夢を生きる金色の蝶は、羽根を休める場所を探して彷徨う。 こっちのことなんか見もしないで。 ねぇ気付いて。ここにも休める場所はあるから。 その羽根をここで休めて。 偽りでも、つかの間でも。 今は、ここにいて――――― |
ポルノの「アゲハ蝶」を聞いていて、最初は“喜びとしてのイエロー”が金髪、“愁いを帯びたブルー”が碧眼でまんまハイデリヒじゃん!とか思ってたのですが、歌詞の内容的にはtoエドだよなぁ・・・と考え直しこう↑なりました。“金色のアゲハ蝶”は・・・まぁ、キアゲハということで。 ちなみにこの作品では1番をモチーフにしておりますが、2番をモチーフにしてもまた違った作品ができると踏んでいます。今のところ書く予定は無いのですがね。 ところで、ハイデの一人称を「僕」にするか「ボク」にするか「ぼく」にするかで相当悩んでいたのですが、「僕」で統一することに決めました。ホントはミュン編の兄さんは「俺」でもいいかなぁとも思っていたのですが、そっちはやはり原作に忠実に「オレ」で。 兄さんに関してはまだ悩んでいるのでこれから変わる可能性もありますけどね; |