何かを護るために――――
そうでないと僕はもう戦えないから




往くべき道






最初のきっかけは「偶然」というものだった。
『乗って!!』
有耶無耶のうちにガンダムに乗り、動かして、敵を殺して―――――
理由を必要としたのは、もっと後になってからだった。
人と、人との戦争だということが分かって、怖くて。逃げ出したかったけど、今更逃げられる訳もなくて。
小さな手を、温もりを、護れるのが僕しかいないのだと言うのなら、やるしかないのだと、他に道は無いのだと思った。
でも・・・
『キラ・・・キラ・ヤマト?!』
『アスラン・・・アスラン・ザラ!!』
――――昔と変わらない面差しの彼を、僕は苦しめる存在になるのだろうか。
『お前がっ・・・お前がニコルを殺した!!』
いつでも、優しかった、親友の彼を。アスランを。
・・・アスランと戦ってまで護りたいものが、僕にあるのだろうか。
『来いっ!!』
差し伸べられた手を振り解くほどの理由が、あるのだろうか。
『それでもあそこには・・・護りたい人が、仲間がいるんだ!』
それは本心だった。嘘ではない言葉。
けれど、だからって、アスランと戦いたかったわけじゃない。
『次に会うときは、敵同士だ』
敵?
『アスランは、僕の、敵――――?』
―――――分からなくなった。何を護りたくて、何と戦いたいのか。
だって、誰が好き好んで親友と戦うっていうの?
・・・分からなかった。
そしてそのまま、僕はアスランを殺してしまった。
否、実際には死んでいなかったのだけど。でも、同じだ。
僕は、僕の親友であるアスランを、殺してしまった。
それは再び出会ったからといって取り戻せるようなものではなく。
僕らは互いに、少しずつ寄り添って、傷を癒そうとした。
貪欲に。
誰がそうさせたのか。戦争が?それとも、自分――――
アスランを殺していなかったと知って、僕は泣いた。
安堵と、後悔と、懺悔と。
少しの、懸念と。
僕はもうアスランを殺してしまった。それなのに、また会ったとき同じように笑えるのだろうか。
昔のように、戻れるのだろうか。
そう考えて、ふと気付く。
僕は、昔のように笑いたいのだと。何も知らなかった頃のように、ただ笑っていられれば。
それだけで、救われる。
でももう戻れないから。何も知らなくなんかないから。それは嘘だから。
人を殺した手では笑えるはずがない。親友を殺してしまった手では、絶対に、笑えない。
ぎこちなく名前を呼び合う様は、それを如実に物語っていて。
僕はズルイから、人を求めた。
誰かに「いいよ」って言って欲しくて。お前は間違えたわけじゃないと。
僕を頼る細い腕を、力強く抱きしめて。
護りたいと思った。
この腕を、そして今まで僕が傷つけてきた人たちを。
護るために・・・そのためになら、戦える。もう、迷わない。
何度もそんな決心をした。そして、何度も挫かされた。
人と出会うたび、人を失うたび、気持ちは揺らいで、どうしていいか分からなくなる。
そんな中、僕はフレイを護れなかった。
僕が一番傷つけた人。一番、護らなければならなかった人。
目の前で、手が届かないまま、彼女はいなくなった。
護れなかった僕を、それでも愛しいと言いながら。
護ることができなかったのに。
護ることが僕の理由だったのに。
護れなかった。一番護るべき人を。愛していた人を。
それはもう打算とか計算とかそんなことから離れてしまったところにあったもの。
ただ、僕が護らなければならなかった人。
その人を護れなかったとき、僕はまた道を見失った。
――――戦争は終わった。何かを護る必要も、もうない。
もう誰も敵じゃない。殺さなくていいんだ!
・・・けれど世界は停まっていてはくれなかった。
みんながんばってるのに、上手くいかない。誰も戦いたくなんかないのに。平和に幸せに暮らせればそれでいいのに。
誰かが傷つくというのなら、また戦うしかないのか。言葉は意味を成さないのだろうか。
ラクスの歌も、もう届かない。
『鍵を―――――
それを手にしたら、もう戻れない。嫌でも辛くても先へ進まなければならない。
でも、目の前にいる人が苦しんでいるのに何もしないなんて、それもやっぱり嘘だから。
僕には力があるんだと、誰もがそう言っていたじゃないか。
なら、護ることが戦いの先にあるものだというのなら、僕はもう一度剣を取ろう。
“想いだけでも、力だけでも”願いを叶えることはできないから。
誰かを殺したら、誰かが泣いて、その誰かはまた誰かを殺す。
『いっくらキレイに花が咲いても、人はまた吹き飛ばす―――――
そんな哀しいことは、もう終わりにしよう。
誰が正しいとか、そんなことは今は分からないから。
ただ、前へ進むしかないから。
その時最善だと思ったことをやっていけば、きっと道は見つかる。
今泣いているカガリを、今苦しんでいる国を、助けたいから。
道を決めるのは自分。選ぶのは自分。
選んだ道を進んでいけば、その先が同じなら、大丈夫だから。
傷ついて戻ってきても、悩んで進めなくなっても、ここには仲間がいるから。
世界には、同じ心を持った仲間がいるから。
護れなくなる前に、護る。
それが僕の選んだ道。
終わりはまだ見えない。
この道がどこへ続いているのかも、まだ分からない。
それでも僕は、この道を往く。
自分の気持ちに嘘なんてつきたくなんかないから。
護るための剣を、振り下ろす。
それが未来を切り開く力になると信じて。
平和を築けると信じて。


何かを護るために―――――
それが僕の戦う道だから。


僕は、その道を往く。









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SEED DESTINYの「リフレイン」という回を見て、キラの言いようにどうしても納得できなくて、納得のいく答えを見つけようとして書いた作品。作品というかもう整理。脳内整理。実習中だというのに、無理して下書きを書いていました あの頃の私。(そして今更UP/笑)
どうしても納得がいかないんです。「言葉で分かり合えるように」と言いながら「だから僕はガンダムに乗る」と言うわけですよ、彼は。言葉がいいんだったらカガリみたいにまずは話しかけてみればいいではないですか。でもキラはいつだって自分から仕掛けていくわけで。「どうしてこんなことを」と言いながら自分では似たようなことをやってる。しかもずっと殺さずの戦いをしていたくせに、「当たれーっ!」ですよ?「当たれ」ってそれじゃあ「とにかくどこでもいいから死んでもいいから当たって落ちろ」という風に聞こえるじゃありませんか。あんまりです。制作者サイドに、この台詞に対する深い意味はないのかもしれませんが・・・私の思うキラはあんなこと言わない。絶対言わない。
というわけで脳内補完のために書いたのがこれです。これでも結局「当たれ」を正当化することはできなかったのですが・・・少しは(私の中で)キラの行動が繋がったかなーという感じで。ね。


ちなみにアスランの行動は「リフレイン」で繋がったのでもう充分です。後はもっとラクスと会話するといいよ(え)



2005/9/6


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