小十佐18禁SS「烏との再会」後編18
- 2011/10/19 07:20
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※R15程度の性的な描写がありますので、閲覧の際はご注意ください※
諸侯との面会は滞りなく終了し、しかしその後の宴会が長引いたため、忍の待つ宿に向かうことができたのは夜もだいぶ更けてからになった。
本当はまだ宴が終わっていなかったのだが、途中で政宗様に呼び寄せられ、
「お前、邪魔だからどっか行け」
と言われたのだ。
「そんな一刻も早く honey の元に行きたいです、とでかでかと書いてる面で同席されても鬱陶しいだけだ。ここはいいから、お前はもう宿へ行ってやれよ」
「しかし、政宗様…この宴への参加も政務のうちです。それをやすやすと退席するわけには」
「今回の話は元々そんなに難しい話じゃなかったんだ。お前が途中でいなくなったくらいでどうってことないさ。それよりも、あいつは気分屋な上に逃げ足だけは一級品だぜ。大人しくしてるうちに首根っこ捕まえといた方がいいんじゃないか?」
そう仰ると、政宗様は懐からごそごそと何かを取り出された。
「これ、さっき町に行った時に買ったんだけどよ。餞別代りにお前にやるよ」
見るとそれは小さな包みで、表に「艶福赤蝮丹」と書いてある。
江戸で今話題をかっさらっているという精力剤だった。
…あらゆる意味で最悪だったが、ともかくも俺は深々と一礼し、その場を辞した。
俺は宿屋街へ続く道をひた走る。
今日はやたらと走ってばかりの日だ。
店の軒先に吊るされた色とりどりの提灯が茫とした光を放っている。
その光は酷く鮮やかで、俺はまるで幻想の中を走っているような錯覚に陥る。
今宵はやけに景色の色が綺麗に見える。これが江戸の夜の色なのか。それとも俺の浮き立つ心が色を鮮やかに見せるのか。
弾む息を整えながら宿の部屋の戸を開けると、忍は窓の傍に膝を抱えてもたれかかり、餅をちびちびと齧っていた。
俺の姿を認めるとぱっと立ち上がり、「お帰り旦那!お疲れさん」と言って笑った。
俺の上着を受け取り、てきぱきとした動作で着物掛けに掛ける。彼にこんなふうに世話をされるのも随分久しぶりのことだった。
「夜食にどうかなと思って餅を買ってきたんだけど、どう?食べる?」
「ああ、頂くとしよう」
俺たちは窓辺に寄りかかって二人で餅を食べた。
「…昼間にした話の続きだがな」
俺はやにわに話を切り出した。
「奥州に…俺の所に戻ってきちゃくれねえか。もしもお前さえ良ければ、またずっと、」
見ると、忍は視線を落とし、組み合わせた己の両の手指を眺めている。
「…気持ちは嬉しいよ。…でもさ、俺たぶん、まだそこまで真田の旦那のこと吹っ切れてない」
「…そうか」
「今戻っても、きっとまたあんたを傷つける」
「構わねえ」
「…構わなくはないでしょ」
「言っただろう。俺はお前のいない暮らしがつくづく身にこたえたんだ。…どうせ苦しむなら、独りで苦しむよりお前と一緒に苦しむ方がいい」
「…あんたって…ほんとお馬鹿さんだね」
忍が呆れたように笑う。
それきり彼は黙り込んでしまい、俺も何も言えず、部屋に沈黙が訪れた。
――やはり、無理なのだろうか。共にはもう暮らせないのか。
俺が小さく息を吐いた時、忍が口を開いた。
「…ねえ、旦那。昼間から気になってたんだけど、その指の傷どうしたの」
急に話を振られ、俺は己の指を見る。
俺の左指には小さな引っかき傷があった。奥州を発つ直前に烏に付けられたものだ。
足の傷に薬を塗ってやろうとしたら案の定抵抗され、指に爪を立てられた。
大した傷ではないのだが、目ざとい彼のことだ、ずっと気にかかっていたのだろう。
「ああ、これか。飼ってる烏にやられた」
「烏?」
「数ヶ月前に拾ったんだ。足を怪我しててな、面倒を見てやろうとするんだが全然上手くいかねえ。餌も未だにいいのが見つからなくてな」
「へえ……旦那が烏をねえ」
興味を持ったらしく、身を乗り出してくる。
「ひょっとして、それって俺様がいない寂しさを紛らわすために飼い始めた…とか?」
忍は半ばおどけて言ったのだろうが、俺が「まあ、そういう面もある」と返事すると、肩を竦めて「あらまあ」と言った。
「烏ってのは本当に頭がいいんだな。こちらを値踏みしてやがる。面倒を見ようとしても全然思うようにいかねえ…お前ならもっと上手く世話するんだろうがな」
「………」
俺がふうと息をつくと、おもむろに彼が呟いた。
「その烏、俺様が面倒見てやろうか?」
「…あん?」
「烏を使役できるようになると便利だぜ。その烏、俺があんたの忠実な下僕になるよう仕込んでやろうか?」
「……お前…」
俺の烏の面倒を見る――それはつまり、
「鷹匠ならぬ烏匠ってわけだ。ねぐらと食い物を貰えりゃ、金子は別にいらないぜ。あ、時々はちょっと貰えると嬉しいけど。――どう?」
人を化かすような顔でにっと笑う。
「…お前が面倒を見てくれるなら心強いな」
俺も負けじと忍を流し見て笑う。
「ただし、条件がある」
「何?」
「もし可能なら自然に帰してやってほしい。それが無理なら、俺の下僕じゃなくてもっと対等な――そう、俺の無二の親友になるよう育ててやってくれねえか」
「無二の…親友?」
「そうだ」
「難しいこと言うねえ、旦那は……」
忍は唸って考え込んでいたが、やがて顔を上げ、俺の目をじっと見据えた。
「ま、いいでしょ。やってみますよ」
「…頼まれてくれるか」
「うん」
俺は顔全体に喜色が広がるのを感じた。――彼が戻ってきてくれる。
本当なのだろうか。俄かには信じがたかった。
「猿飛、本当にいいのか」
俺が質すと、忍は身体の横で両腕を曲げ掌を上にし、お手上げという態度を示した。
「あんたにゃ負けたよ。こうなったらもう一蓮托生だ。…それじゃ、契約成立ってことで」
そう言うと、おもむろに右手を差し出してきた。
「…?何だ?それは」
俺がいぶかしむと、彼は眉を顰めた。
「何って、握手でしょ。旦那が教えてくれたやり方でしょうが」
やにわに過去の記憶が鮮明になる。――彼はあの時交わした行為を覚えていてくれたのか。
「ああ、悪い。…よろしくな、猿飛」
「こちらこそ」
俺は頬が緩みそうになるのを懸命に抑えながら、彼の手を握り返した。
その後、俺たちは今回の江戸行の話や彼が仕入れた徳川の話など、他愛無い会話を交わした。
今後の俺の予定を伝え、奥州に引き上げる時どうやって合流するかなどについても軽く打ち合わせる。
時間を忘れて話しているうちにすっかり夜も更け、真夜中になった。
彼が一つ大きく欠伸をする。
「まだ全然話し足りないけどさ、あんた明日もお仕事あるんでしょ?とりあえず布団敷こっか」
「……そうだな」
てきぱきと寝具を整える彼の姿を見ながら、俺は自分の身体が強張るのを感じる。
先刻、握手の時に触れた彼の手の感触を思い返す。
――久しぶりに触れた彼の手。奥州にいた時と全く同じ手だった。
白く細長い指。様々な秘薬や忍具を扱うために皮膚はかさつき、荒れている。
突然、彼を抱きしめたいという欲望が腹の底から突き上げるように湧き上がった。
しかし彼の許しを得ずにそれをするわけにはいかない。
彼が未だに俺と触れ合うことを是としているのか、俺はまだ確認していない。
寝具の上に正座し、憮然とした面持ちで俯いてしまった俺を忍が心配して覗き込んできた。
「どうしたの?まだ何か悩み事?」
「…いいか」
「え?」
「触れても、いいか」
「へ…?」
「お前に触れたい。…構わねえか」
顔を上げることができない。己の耳が赤くなるのを感じる。
「は……はははっ」
忍は声を上げて笑い出した。
「あんたって本当に可愛いねえ…」
彼の顔が俺のそれに近付いてくる。
「…いいに決まってるでしょ?俺があんたを拒んだことなんか今まで一度もないだろ?」
「そうは言うがな…」
「…俺もあんたに触れたいと思ってたよ。あんたに再会してから、ずっと」
耳元で囁かれる彼の声。
たまらず、俺は彼の頬に手を添えた。
ゆっくりと唇を寄せる。
――軽く触れ合わせるだけの口付けを交わした。
もしかすると、初めて触れた時よりも緊張しているかもしれなかった。
何しろ、今のこの状況が未だに信じられないのだ。ひょっとすると全ては夢で、目を覚ましたら全て霧のごとく消えてしまうかもしれないと思うと、恐ろしかった。
ほうと彼が溜息をつき、見ると、瞳が蜜のように蕩けている。
今度は彼の方から口を寄せてきた。
啄ばむような口付けを数度交わした後、彼は唇を薄く開けて舌を覗かせ、俺を誘う。
俺は彼の口の中に舌を差し込み、丹念に彼の舌を愛撫した。
幾度も角度を変えて存分に味わった後、口を離す。
彼が唾液で塗れた己の唇をぺろりと舌で舐めた。
艶めいたその仕草に、俺の中の本能がずくんと脈打つ。
彼は目を細め妖艶な笑みを浮かべる。
俺は彼を寝具の上に押し倒した。緊張と興奮で蟀谷がずきずきと痛む。
「…猿飛、お前を抱きてえ。いいか」
彼の目を見据え尋ねると、彼は口端に苦笑を浮かべた。
「いいかなんて、聞かないでよ……酷い人だね」
身じろぎし、脚の付け根を俺の腿に擦り付けてくる。
――彼のものはすでに兆し始めていた。
「俺もう、こんなになってんだよ……察してくれよなあ…」
肩を震わせてくくくっと笑う。
俺は彼の顔全体に口付けを落としながら、彼の着物の帯に手をかけた。