小十佐18禁SS「烏との再会」後編17
- 2011/10/18 16:22
- Category: 小十佐::SS18禁「烏との再会」後編
政宗様はこちらに背を向け、茶店の軒先に置いてある座り台に腰かけている。
対する俺たちは店の奥のやや暗がりになっている席に陣取っていた。そのため政宗様は俺たちがいることに気づかなかったのだろう。
――従者としてあるまじきことだが、その瞬間まで俺は己が政宗様を探していたということを失念していた。
忍と再会した衝撃で、一切が頭から吹き飛んでしまっていた。
ともかくも、政宗様を捕まえねばならない。俺は席を立ち、軒先の座り台へと向かった。
「政宗様」
おもむろに声をかけると、政宗様の肩がびくりと波打った。恐々とこちらを振り返る。
「こ、小十郎……なんでお前がここに……ってさ、猿!?」
俺の後に伴ってきた忍の姿を捉え、政宗様の目が驚愕に見開かれる。
政宗様が驚きのあまり絶句しているところなど、滅多にお目にかかれるものではない。
「いやあ、お久しぶり~竜の旦那」
忍がへらへらと笑って手を振る。
「さ、猿……なんでお前がここにいるんだ!?」
「いやまあ、なんつうの…社会勉強ってやつ?江戸に来ればいろんな情報が手に入るでしょ。それでさ」
「何を呑気なことを言ってやがる……このくそったれのmonkey野郎!!」
政宗様がいきなり忍に飛びかかり、胸倉を鷲掴みにした。
「よくも俺の大事な右目を誑かして骨抜きにしてくれやがったな!!こいつお前がいなくなった後、一貫も目方が減ったんだぞ!!」
「え、そうなの?嘘だろ……」
忍が驚いた目で俺を見る。
「小十郎に詫びろ。土下座して詫びを入れやがれ!!色目を使ってたらし込んだ挙句放り出してすいませんでしたと今ここで言え!!」
「何だよそれ!?俺様だって悪かったとは思ってるよ。でもあんたに言われると謝る気が失せるっつうの!!」
「What!?」
二人は胸倉を掴みあって、今にも殴り合いへと発展しそうな勢いだ。これではまるで子供の喧嘩だ。店の者や客たちがおろおろしている。
「お二方ともいい加減になさいませ!!」
俺が怒鳴ると、二人ともびくりとして動きを止めた。
「町中で目立つような真似はお止めくださいませ、政宗様」
「…Sorry。つい頭に血が昇っちまった」
政宗様が憮然とした態度で忍から手を放す。
「猿飛、お前もだ。売り言葉に買い言葉で応じてんじゃねえ」
「…ごめん」
忍も反省しているらしく、しゅんとしている。
政宗様がぱんぱんと袴を叩いて埃を払った。
「…しかし、どういう事なんだ。要はこの広い江戸で偶然にもばったり出くわしたってことなのか」
「その通りです」
「まさかの引き合わせだな…これが Power of Love って奴か…」
何やら要領の得ないことを仰いながら、顎に手を当て考え込んでいる。
「ていうか、二人とももう仕事は終わったの?国に帰る前に江戸見物をしてたってこと?」
忍が頭の後ろで手を組み、軽い調子で聞いてきた。
そこではっと気がついた。
「…いや、全く終わってねえ……むしろこれからだ」
「…小十郎、先方との約束の時間…」
「…もう四半刻もありませんな」
「Shit」
急ぎ政務に戻らなければならない。――しかし忍をどうすればいいのか。
「俺はこれから仕事がある。もう行かなくちゃならねえ……お前、江戸のどこかに住んでるのか」
忍の方に振り返り、口早に問う。
「俺様?今は町外れの長屋を借りてるけど…でも訳あり者用のめちゃくちゃ狭くて汚いところだからなあ。あんたをあそこに招くのはちょっと忍びないかなあ…」
俺は政宗様の方に向き直った。
「申し訳ありませんが、政宗様は先に宿所にお戻りください。小十郎めは諸用を済ませ次第すぐに向かいますゆえ」
「…わかった。さっさと戻れよ!」
言うなり政宗様は宿所へ向かって駆け出した。
俺は忍の腕を掴む。
「旦那、どこへ行くの?」
「いいから付いて来い」
俺は宿所とは逆方向に歩を進めた。
俺は忍を伴い宿屋街へと向かった。
適当な宿屋に入り、手早く部屋を取る。
「旦那、どういうこと?俺様にここで待ってろってこと?」
記帳をする俺の顔を忍が覗き込む。
「そうだ。お前との話が全然ついてねえが、俺はひとまず仕事に行かなくちゃならねえ…夜には戻るから、それまでここで待っててくれ」
「うん、わかった」
俺は記帳を終え、忍の顔を見る。
――本当に待っていてくれるだろうか。
俺に捕まるのを嫌がって、また姿を消すなどということは――
「そんな顔しなさんなって、旦那」
忍が苦笑を浮かべる。
「逃げたりなんかしないよ。俺様だってあんたとちゃんと話をしたいしね…心配しないで、ちゃんとお仕事してきてよ。ここでずっと待ってるからさ」
「…ああ」
忍が握り拳でこつんと俺の肩を叩く。
それを合図に、俺は身を翻して宿屋を出た。
本当は離れたくなかったが、今はとにかく宿所で政宗様と合流せねばならない。俺は全速力で疾走した。