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小十佐18禁SS「烏との再会」後編11

※18禁描写がありますので、閲覧には十分ご注意願います※
続き

彼を静かに床の上に横たえる。
帯に手をかけ、彼の着物を寛げる。白い肌が露わになった。
首筋に唇を這わせると、ふっとあえかな吐息が彼の口から零れた。


最初はただの同情心だった。
己と似た立場にあった彼の悲境に共感し、いつしか彼を支えてやりたいという友情を抱くようになった。
しかし、それがいつどのようにして恋情へと変化したのか、いくら考えても判然としない。
あの祭の夜に何もかもががらりと一変したのか。
――そうではないように思う。
ではいつからそれが始まったのか。
関の近くの崖に身を躍らせる彼を助け、握手を交わした。
あの時彼に抱いていた感情は確かに友情だと思っていた。だが本当は違ったのか。
それはもっとずっと前から、自身で気づかぬうちに静かに始まっていたのか。
――今となっては詮無い問いだ。


彼の色素の薄い身体を、両の掌を使って撫でる。
触れることで、幾ばくかでも彼への慈しみが伝わればいいと願いながら。
額に、頬に、鼻に、瞼に口付けを落とす。彼はくすぐったいと言い、身を捩って笑う。
彼は肉付きが薄いせいか、どこに触れても敏感な反応を返す。そんなところも好もしかった。
脇腹を掌で擦りながら腹筋を舌でなぞる。彼の腰がふるふると震える。
顔を見ると、眉根を寄せ頬は紅く染まり、彼がもう早受け入れる身体へ変化し始めていることを知る。
それでもまだ、彼の望むものを与えてやる訳にはいかない。そんなふうにして呆気なく終わらせたくはなかった。
すでに反応を示している彼の性器には触れず、内股の付け根をきつく吸う。
くう、と狗のような鳴き声を彼が上げる。
俺は彼の脚を撫で擦りながら、内股から膝、脛、さらには足の指に舌を這わせる。
彼があっ、あっと短い喘ぎを漏らす。彼の中心は痛々しいほど硬くなり、勃ち上がっている。
早く、と彼が言う。早く入れて。焦らさないで。
俺はそこでようやく香油の瓶を取り出し、己の指を濡らす。
油に塗れた人差し指を、彼の後孔にそっと宛がう。
それだけで彼はくっと顎を仰け反らせる。
ゆるゆると円を描くようにして人差し指を挿れてやると、彼は唇の間から舌を見せ、断続的に息を吐いた。
指を緩く抜き差ししながら彼の弱い所を刺激してやる。こりこりとしたそこに軽く触れるたびに、彼の全身がびくんと跳ねる。
いつになくゆっくりと追い上げる俺の手管に、彼はもう身分差も恥じらいも忘れて喘ぐことしかできない。
早く挿れて。早く。指なんかじゃなくて、あんたのが欲しい。
彼の声はもう涙声になっている。
俺はそれに応えず、人差し指に加えて中指を彼の中に送り込む。
いつまでも満たされない苦しさに、彼は身を捩り床に爪を立てる。


どうして彼を恋い慕うようになったのだろう。
彼が内に秘める激しさに、いつの間にか引きずり込まれたのだろうか。
それとも単に、彼が美しかったからなのか。彼の容姿や声が己の好みに適っただけなのか。
あるいは、彼の中に己のもう一つの可能性を見たからなのか。
出自も境遇も違う彼の中に、確かに己と同じものを見たからなのか。
わからない。
その全てが理由なのかもしれないし、あるいはまったく別の理由によるものなのかもしれない。
俺のこの心情を正しく言い表せる言葉がこの世に存在しないということを、いつも不思議に感じる。
不可解であり、不条理でもある。それでもそれは確かにそこにある。
――彼が好きだ。彼が恋しい。
胸が張り裂けそうになるほど、いつも心の内で叫んでいる。


三本の指で彼の後孔を丁寧に拡げる。
極まることができないぎりぎりのところを弄られ続け、彼はもう半ば正気を失っている。
お願い、いきたい。いかせて。
慎みも忘れ、俺にしがみ付き請い願う。
俺はそこでようやく己の下帯を解き、限界まで硬く屹立したものを彼の後ろに宛がう。
満たされる期待に、彼が全身を戦慄かせる。
ゆっくりと、彼の中に入り込む。
先端を含んだところで彼がああと声を上げ、呆気なく前を弾けさせた。
びくん、びくんと数度に渡って精液が溢れ出る。
後孔からもたらされる長い余韻に、彼が身をくねらせて浸っている。すぐに追い上げるのは彼の身に負担がかかると知りながら、俺は注挿を開始させる。
――待って。
彼が俺の肩を掴む。まだいってるから、動かさないで。
俺は聞かず、己の性器を大きく抜き差しする。
待って。待って。
彼は涙を流しながら後孔を蠕動させる。舐られるようなその動きに背筋が粟立つ。
きゅうっときつく彼の内部が締まり、彼が二度目の絶頂を迎えたことを知る。
――酷いよ、待ってって言ったのに。
彼がはらはらと涙を零す。
俺は彼の涙を舌で舐め取る。微かに塩辛い味がする。
――くすぐったいよ。あんた、犬みたい。
彼が泣きながら笑う。


いっそ犬のように、何も考えず寄り添い合えたらと思う。
思考を重ねるたび、言葉をかき集めるたび、俺と彼の距離がどんどん広がってゆく。


俺は注挿を繰り返す。
力の限りに彼を突き上げ、彼の望む所に俺のものを突き当ててやる。
彼は壊れてしまったかのように善がり、腰を振る。触れてもいない彼の乳首がつんと硬く勃ち上がっている。
もっと欲しい、もっと奥まできて。あんたのものでいっぱいにして。
俺はその通りにしてやる。
彼は泣き叫び、折り曲げて俺の肩にかけている両脚をがくがくと震わせる。


いっそ泣けたらいいと思う。
もっと泥仕合を演じればいいのだ。泣き喚き、縋りつく。
真田のことなど忘れろと彼を打ちのめす。
牢にでも閉じ込めてしまいたい。身体だけでも、余す所なく支配したかった。
しかし、そんな事はできるはずがない。
俺は中途半端に年を取り、中途半端に賢しさを身につけてしまった。
己の彼への行いが、彼への優しさなのか、慈しみなのか、あるいはただの小心なのか、俺はもう判別することができない。


俺の腰がぶるっと震える。彼に思う様絞り上げられ、ついに限界が来たことを悟る。
俺は身を倒し彼をきつく抱き締める。全身を襲うさざ波に身を委ねる。
俺は何度も身体を痙攣させ、彼の中に吐精した。
熱い、と彼が呟き身を戦慄かせる。
俺は彼の中に入ったまま彼に口付ける。丹念に彼の舌を吸う。


――ごめんね。
吐息のような声で彼がささやく。
ごめんね。旦那。
俺はかぶりを振った。そんな言葉は聞きたくない。
彼が俺の頬を両手で包み、俺の額や鼻筋に口付ける。先に俺がしたことをなぞるように。
俺は軽く首を振り、彼の首筋に顔を埋める。
涙を流したかった。
母に我儘を言い地団駄を踏む子供のように振舞い、行かないでくれと叫びたかった。
しかし自分にそれが出来はしないことも、俺はとっくに理解していた。


遠くで狗の吠える声が聞こえる。
音もなく、夜が迫り来ていた。