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小十佐18禁SS「烏との再会」前編01

小十佐SSです。
そのうち18禁的内容が入る予定です。
死ネタがあります。(幸村が亡くなっています)
また小十佐とはいいながら、幸佐要素がガッツリ入る予定ですのでご注意ください。
続き
真田幸村が死んだ。
家康と刺し違えたのだ。家康はかろうじて命を長らえたものの重症であるらしい。
圧倒的に不利な勢力でありながら、何度も徳川を追い詰めた稀代の猛将はついにあの首から下げていた三途の川の渡り賃を使い、足早に黄泉へと旅立った。
わが主、政宗様は本陣にて訃報を受けると一言「そうか」と呟いた。
もっと激しく怒りを露にするかと思っていたのに意外だった。
西軍の戦況からして、真田とご自分が再び相まみえるのはおそらく不可能だという事を薄々は察せられていたのだろう。
主は「…馬鹿が」と吐き捨てるように呟き、暗雲の広がる空を見た。
「この俺との約束を破るとは、いい度胸してやがるぜ」
凪いだような静かな瞳だった。

戦はまもなく東軍の勝利で終結し、俺と政宗様は自軍を率いて奥州へと戻った。
奥州に帰ってからの方が大変だった。なにしろ世情はすでに新しい時代への舵を切っている。これに乗り遅れることがあってはならない。
新しい日の本の国において、奥州が有利な立場を保持できるように工作する。かつ、最低限の恭順の意を示しつつ牙は研いでおかねばならない。
寝る間を惜しんでの政務が続いた。政宗様もいつになく真面目にお役目を果たしておられた。感傷に浸る間もない方がかえって楽であったのかもしれない。
「小十郎、目の下の隈がひどいな」
打ち合わせのため政宗様の部屋を訪れると、藪から棒にそう言われた。
「そうでしょうか」
「お前は休まなさすぎだ。少し休め」
そんな顔で傍にいられても迷惑だ、さっさと家に帰れと邪険に腕を振られた。
「この大事な時期にそのような呑気な…」
「大事な時期だからこそ潰れられちゃ困る」
「この小十郎、この程度の働きで潰れるほどやわではございませぬ」
「疲れがたまると自分の限界すら見極められなくなるぜ」
「政宗様こそお疲れのご様子。どうかお休みになってくださいませ」
「俺はなんだかんだ言って寝てる。お前、ほとんど寝てないだろ」
つべこべ言うな、命令だ、と頭ごなしに言われてそれ以上何も言えなくなる。
仕方なく従うことにした。

己の屋敷に戻ってはみたが、疲労のためかかえって目が冴え眠れない。
すでに夕刻ではあったが、心身をほぐすために畑へ向かった。
畑の番をさせている農民たちが「片倉様、お久しゅうございます」と嬉しそうに寄って来る。
土をいじっていると心の凝りが和らいでくる。同時に政宗様の仰るとおり、己が限界まで張り詰めていたことを自覚した。
先の戦で失ったものへ思いを馳せる。
真田幸村。かつては同盟を結び、いくばくかの交流を持ったこともある。
結局同盟は破られることとなったのだが、敵ながら見上げた人物だった。
今も敵味方関係なく、各地の武将があれこそ日の本一の兵なりと彼を褒め称えている。
政宗様と決着をつけられなかったとはいえ、本人としても悔いのない人生だったのではないか。
ふと、彼に仕えていたあの忍はどうなったのだろうと考えた。
真田の忍、猿飛佐助が討たれたという話は聞かない。あの戦以来行方不明となっていた。もっとも忍は日陰の存在、おそらくは真田を守りながら人知れず果てたのだろう。
彼は忍の身でありながら主に過剰に入れ込んでいた。いったいどのような最期を遂げたのか。
気にはなったが、今となっては知る由もない。俺は彼らと最期に交わした言葉がどんなものであったか思い出そうとしたが、うまくいかなかった。