小十佐18禁SS「烏との再会」前編05
- 2011/08/25 06:12
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忍の容態はそれから日増しに回復していった。
日毎に目を覚ましている時間が増え、身体の動かせる部位が増え、意識を取り戻して五日目には覚束ない足取りながら歩けるようにまでなった。
怪我の酷さからすれば驚異的な治癒力だった。これも忍の秘術の一環かと内心舌を巻いたが、呑気に感心している場合ではない。
生き永らえたとなれば、次の手筈を整えなければならない。
夕刻に農夫小屋を訪れると、忍は囲炉裏の傍に胡座をかき粥をすすっていた。
「あら、右目の旦那、今日は早いじゃないの」
「まあな」
「粥でもどう?美味いよ。つってもあんたんとこのお爺ちゃんが作ってくれたんだけど」
「いや、いい」
俺は忍の傍らに座り、火かき棒で囲炉裏の灰を軽くかき混ぜた。
「明日お前を俺の屋敷に移そうと思う」
前置きなしに用件を告げると、忍は粥の椀から口を離して俺を見た。
「旦那の屋敷に?」
「そうだ。ここは農夫の作業小屋だ、いつまでも怪我人の寝床に使う訳にはいかねえ」
「あんたの屋敷なんて堅苦しそうだなあ…できれば怪我が治るまでここに居させてほしいけど」
「駄目だ」
「さもなきゃいっそ明日出てくけど。礼も無しに出てくことになっちゃうけど、あらためてちゃんと借りは返させてもらうし」
「そんなぼろぼろの体でどこへ行くってんだ?怪我が完治するまではここを出させる訳にはいかねえ。俺が拾ったからには最後まできっちり面倒を見る」
「最後ねえ…」
忍は胡座を崩して後ろ手に手をつき、囲炉裏にかかった鍋をぼんやり眺めている。
「政宗様がお前に会いたがっている」
俺がそう言うと、忍の表情が一瞬固まった。
「独眼竜が…」
「ああ。政宗様はお前に聞きたい事があると仰せだ」
政宗様にはこいつが生き延びると分かった時点で一連の事を報告した。すぐにでも農夫小屋に駆けつけようとする政宗様を抑え、忍の容態が安定するまで待っていただいていたのだ。
「要は真田の旦那の最期を知りたいって事でしょ」
「…まあ、そうだ」
忍は己の茜色の髪を掻き揚げてため息をついた。
「俺様あの人嫌いなんだよね」
「はっきり言うな」
「言うさ。今さらおためごかしを言ってもしょうがないでしょ。…あの人に旦那の最期なんか教えたくないよ」
この二人は真田の生前から仲が悪かった。某は二人とも好いておるのに、どうしたもので御座ろうかと困ったような笑みを浮かべる真田が今でも思い出される。
「お前の気持ちは分からなくはない。だがな…」
「まあ、いいでしょ。借りもある事だしね、会いますよ」
「すまないな」
「なあに、右目の旦那に受けた恩を思えばね」
忍はこちらを流し見て、片眉をつり上げにっと笑った。狐が人を化かすような笑みだった。