小十佐18禁SS「烏との再会」前編04
- 2011/08/25 06:09
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忍は手をついて上体を起こそうとしたが、激痛が走ったらしく呻き声を上げて再び床に横たわった。
「……ここは…」
「俺の領地の農夫小屋だ」
「なんであんたがここにいる…」
「それはこっちの台詞だ。お前どうして奥州の山奥なんかで倒れてやがった」
「…………」
「答えられないような理由か」
「…いや……頭ん中が混乱しててさ」
それはそうだろう。彼はかれこれ一週間以上も眠り続けていたのだ。
「無理はしなくていい。とりあえず身体を休めろ。話は後でもできる」
身体がつらいのだろう。それきり忍は黙り込んでしまったが、やがて天井を眺めながらぼそりとつぶやいた。
「…大助様を……」
「ん?」
「旦那のお子を薩摩に届けなくちゃならなかったんだ」
「真田の子か」
真田に倅がいるという話は聞いていたが、真田家があまり情報を出さないようにしていたため、詳しいことはほとんど知らなかった。
「大助様には才蔵の隊がつくことになった。俺の仕事はこちらの隊が本隊と見せかけて追っ手を引き付けること」
「要は囮か」
「そう。敵さんをだまくらかすのはうまくいったんだけど、何せ数が多くってね…連れてきた部下は全員死ぬし、俺様もこの体たらく。いやお恥ずかしい」
やつれた青白い顔でいつもの皮肉めいた笑みを浮かべようとするのが痛々しかった。
「大変だったな」
「滅びた国の命運なんてこんなもんでしょう」
忍はおどけた調子でうそぶく。
「ねえ右目の旦那」
「なんだ」
「ひょっとしてここがあの世ってことはないよね」
「何を馬鹿なことを…」
「いやあてっきり死んだと思ったからさ。生きてるってのがいまいちピンと来なくって」
「残念ながらここは現世だ」
「じゃあさ」
目を覚ますなりぺらぺらとよく喋る忍だと半分呆れていると、
「真田の旦那が死んだのは夢じゃないんだよね」
一瞬返す言葉を失った。
「…そうだ。真田は死んだ」
「……」
「俺と政宗様は真田の訃報を戦場で聞いた。あれ以来政宗様は深く沈んでおられる」
「…そっか」
それ以上言うべきことが見つからず、沈黙が流れた。
忍はふ、とため息をつき、
「…ちょっと疲れたみたいだわ、眠ってもいいかな」
「当たり前だ。お前は少し喋りすぎだ」
返答し忍を見やると、彼はすでに意識を失っていた。
血が足りないのだろう。限界まで己を見せまいとする男だ。
風が吹き、ざわざわと木々の葉の擦れる音がした。
月明かりに照らされた徳利の影が長く伸びている。
俺は徳利を手に取り、杯に酒を足し一息に飲み干した。