小十佐18禁SS「烏との再会」前編03
- 2011/08/25 06:05
- Category: 小十佐::SS18禁「烏との再会」前編
忍は昏々と眠り続けた。
さすがに目を覚ますまでずっと傍にいるわけにもいかない。
俺は日中は老農夫に忍の世話を頼むことにし、容態に変化があれば連絡をよこすように頼んだ。
夜政務が終われば小屋へ戻り、老農夫と交替して忍を見張った。
老農夫は恐縮し、自分がすべて世話を見る、それが納得できないならばせめて夜もお供いたしますとと言い募ったが無理やりに下がらせた。
日中は随分蒸し暑くなってきたが、夜はまだまだ涼しい。
小屋の窓を開けると心地よい風が通る。
俺は眠る忍の傍らに座し、軽く介抱をした後は月を見ながら酒を飲んだ。
夜明けまでに何度かうとうととし、日が昇れば老農夫と交替して己の屋敷に戻る。
そんな暮らしがしばらく続いた。
忍を拾ってから八日目の夜のことだ。
俺はいつものとおり、忍の傍らで酒を飲んでいた。
月明かりの中眠る忍の血の気のない顔を見る。
何の表情も浮かべないその寝顔はひどく幼く見える。もしかすると彼は、思っていたよりもずっと年若いのかもしれない。
それにしても彼ほどの手練れがこのような傷を負うとは、一体どのような目に遭ったのか。
しかも 戦が終わった今になって、大阪や甲斐から遠く離れた奥州の山奥で倒れているとはどういう訳なのか。
予想でしかないが、もしかすると真田の残党を逃すために殿(しんがり)を買って出たのではないか、と考えた。
通常であれば忍は残党の殿など務めはしないが、彼は忍としては異様なほど真田への忠義心が厚かった。それは傍から見ていて危うさを感じるほどだった。
武田信玄公亡き後、主とその忍という枠を超えて精神的に癒着していく二人を見るにつけ、俺は他人事ながらこの二人はどのような最期を遂げるのだろうと心の片隅でかすかに懸念していた。
そうして結末はついにやってきた。
――彼はどうやって真田と今生の別れを遂げたのだろう。
我ながら感傷的なことを考えている。自嘲の笑みを浮かべ杯を呷った。
杯に酒を注ぎ足そうと徳利を取ろうとしたその時、忍が「うう」と呻き声を上げた。
「猿飛」
思わず声をかけた。すると忍はまた吐息まじりの声を吐き、小さく身じろぎした後静かになった。
眠りが浅くなっただけかとは思ったが、俺は彼を注視した。
しばらくはそのままだったが、やがて忍はぴくぴくと身体を動かし、ゆっくりと両の瞼を開いた。
ぱちぱちと瞼をしばたたき呆然としている。今いるこの状況が理解できないのだろう。
「猿飛、目を覚ましたか」
俺が声をかけると忍ははっとした表情に変わり、首を傾けて俺を見据えた。