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小十佐18禁SS「烏との再会」前編02

続き
「片倉様」
畑の番の老人が駆け寄ってきた。
「どうした」
「実は、少し妙なことがあり……」
「妙なこととは何だ」
曰く、この先の茂みで血痕を発見したという。
老人に誘われ行ってみると、確かに地面に血の痕がある。しかも夥しい量だ。
そしてこれは動物のものではない、人間の血だ。
「賊でも迷い込んだか」
「恐らくは……」
「わかった。お前たちは下がっていろ。俺がケリをつける」
「片倉様の部下の方々を呼びに行ってまいります」
「必要ねえ。俺一人で十分だ」
老人を下がらせ、俺は血の痕を追った。
血痕は茂みの奥へ転々と続いている。手負いの者が一人でよろよろと彷徨っているのだろう。
この血痕の主が賊か何かだとして、仲間と合流するつもりで移動しているのだとすれば厄介だ。
俺は気配を消して茂みの奥へと入っていった。
奥へ進むたび血の匂いが濃くなっていく。そう遠くない所に本人がいるはずだ。
静かに辺りを見回す。
と、眼前に奇妙な光景があった。
甲冑をつけた手足が草むらに転がっていた。血でどす黒く汚れた頭部も見える。しかし胴体がない。
一見して胴のみ持ち去られたバラバラの死体のように見えたが、そうではなかった。
その人物は――血塗れで地面に伏している人間は、木々や草に溶け込むような色の装束を着ているのだ。そのために胴体がないように錯覚したのだ。
このような奇妙な衣装を身につけている者は、俺の知る限りでは一人しかいない。
まさか。信じられない。
俺は倒れている人物に近づき、屈み込んでその顔を確認した。
真田の忍だった。
乾いた血が彼の妙な化粧や特徴的な赤毛をも黒く染めてしまっていたが、間違いない。
なぜこの忍がこんな所に?彼は先の戦で死んだのではなかったのか。
首筋に触れ脈を計る。弱々しいが心拍があった。息もしている。
どういうことなのかまるで分からなかったが、ともかくも放っておけない。俺は彼を担ぎ、急ぎ農夫小屋へと向かった。

忍は全身に大怪我をしていた。
頭部の皮膚は裂け、胴にも足にも深い刃傷を負っている。
応急処置をした後に医師を呼び身体を見させたが、もはや手の施しようがないと言われた。
「薬でどうにかできる状態を超えております。あとはこの者の体力と精神力のみの問題かと…」
申し訳なさそうにしている医師を下がらせ、俺は忍の傍らに胡坐をかいた。
こいつは死なない。確信があった。この程度の傷で死ぬのであれば、とっくの昔に命が尽きているはずだ。
早く目を覚ませ、忍。お前には聞きたいことが山ほどある。
俺は蝋燭の薄明かりの中、蒼褪めた顔で横たわる忍を見つめた。