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小十佐18禁SS「桃尻忍のいけない修練」02

続き

「ほら隊長、あんたもこっち来て挨拶しろよ」
狐面の男が声をかけても、猿飛佐助――真田の忍隊長はぴくりとも動かない。
その時、唐突に思い出した。
あの狐面は以前に猿飛がつけていた物だ。武田漢祭りとか何とかいう謎の催し事に巻き込まれ、小十郎自身も武田の館の燈籠を壊してしまった負い目を盾に散々訳の分からない奇行を強要された。
その時に味わった恥辱を丸ごと記憶の片隅に追いやっていたのでなかなか気づけなかったが、間違いない、あれはあの時猿飛――天狐仮面と名乗っていたが――が被っていたものだ。
しかし今は猿飛ではない者が面をつけている。面の脇から覗く髪は黒く、長さも猿飛より短い。
身体つきは猿飛とよく似ているが、よく見ると猿飛より少し大きめの体躯をしていた。
先ほどこの男は自分の事を「真田忍隊の副長」と名乗っていた。という事は、猿飛の腹心の部下といった立場の者なのだろう。
「いつまでも不貞腐れてんじゃねえよ。元はといえばあんたが言い出した話だろ?」
狐面の男が猿飛に歩み寄る。
「だってさあ……まさか俺様がやられ役をやる事になるなんて思わなかったんだもんよ…こんなの断固反対!!やられ役なんか絶対やんねー!!」
そこでようやく猿飛が振り向いた。
猿飛は眉をしかめ、子供っぽい膨れっ面をしている。
「隊長、分からない事を言わないでください」
と画面の外から若い男の声がした。
狐面の男のものではない。どうやら別にもう一人、撮影機を回す係の人間がいるようだ。
狐面の男が屈み込み、猿飛の肩にぽんと手を置いた。
「だってウチであんた以外にこういう企画で売れそうな奴いないだろ?あんたが一番顔知られてるんだしさ」
「だからって…!」
「じゃあ幸村様にやっていただくか?あのお方の絵巻はそれはもう高値で売れるだろうなあ…」
すると、猿飛が狐面の男の胸ぐらを鷲掴みにした。
「馬っ鹿お前!旦那にこんな汚れ仕事させられる訳ないだろ!!」
「じゃあごちゃごちゃ言うのはやめて頑張ろうぜ?何事も武田の、ひいては真田のためじゃないか」
狐面の男が猿飛の頭をガシガシと乱暴に撫でる。
その親しげな仕草を見て、小十郎の胸中は密かに荒れた。
――それ以前に、これまでの会話の流れからして何やら非常に嫌な予感がする。しかし、もしも己の予感の通りだとすると口にするのも禍々し過ぎる。
小十郎は両の手を固く握りしめ、ひたすら画面を睨み続けた。「だいたい、お前がタチってのも気に入らねー。何が悲しくて人前でお前とやらなきゃならないんだよ」
猿飛はまだぶつぶつと不平を漏らしている。
「そんなの俺だって嫌に決まってるだろうが。でもくじ引きで決まったんだから仕方がないだろ……そろそろ観念しろよ、長曽我部に随分融通してもらってるのはお前も知ってるだろう?」
うちの取り分もかなりいいし……と二人は顔をくっ付けてひそひそと話し込んでいる。
やがて猿飛は大きく一つため息をつき、
「わかったよ、やるよ……俺様も男だ、やると決めたらとことんまでヤッてやるぜ!!」
そう言うなり、いきなり草色の上衣を勢いよく脱ぎ捨てた。
「やっと決心したか。まったく手間のかかる…」
狐面の男は猿飛から身を離し、右手の指を自身の口の中に入れた。
「お前そのままだと全っ然可愛くねえからな、悪いが薬使うぜ」
「……わかったよ…後がキツいからやなんだよな~あれ」
猿飛は渋い顔で男を睨んでいる。
男の口内からカチリという奇妙な音がした。
歯に何か仕込んでいるのだろうか。
小十郎がいぶかしんでいると、男はおもむろに猿飛に近寄り、顎を取って深々と口付けた。