現パロ小十佐18禁SS「臥薪嘗胆の会」01
- 2011/12/04 21:02
- Category: 小十佐::SS現パロ18禁「臥薪嘗胆の会」
※現パロです
※小十佐短編「free fall」と同じ設定です
台所からトントントンと小刻みに野菜を切る音が聞こえる。
ご飯ができるまでの間暇を潰そうと、テレビをつけたら年越しの歌番組をやっていた。
「へ~、なんかこの後大物歌手が出るんだってよ」
台所の方に声をかけたら、「そうか」とだけ返事があった。
「ご飯まだあ~?俺様腹減った」
「待ってろ、あともう少しだ」
別に俺はコンビニの弁当とかで手軽に済ませても良かったんだけど、片倉君はやたらと俺に手料理を食べさせたがる。
「お前はもっとちゃんとした物を食え」とよく怒られる。別に食い物なんか、腹が膨れればなんだっていいと思うんだけどなあ…
「同期のやつら、今頃年越しパーティーかなあ」
「さあな」
「女の子呼ぶって言ってた。いいなあ、俺様も行けばよかった」
「………」
「俺ら、忘年会も二人そろって欠席しちゃったじゃん」
「ああ」
「年越しパーティーも出ないって言ったら、慶次に『お前最近片倉と仲いいよなー』って言われた」
「…そうか」
「あいつ勘がいいから、俺たちのこと何か感づいてるかもよ」
「………」
「もしも同期のやつらに俺たちのことバレたら、どうする?」
片倉君が料理の手を止めてこちらを振り向いた。
「…どうもしねえ。バレちまったもんは仕方がねえ。理解してほしいとは思わねえが、隠しもしねえ」
「え、そうなの?マジ?俺は全力で揉み消すわ」
「…そうなのか」
「そうだよ。だってやじゃん、気持ち悪がられたり引かれたりすんの」
「………」
片倉君の眼光が鋭くなったが、俺はそれを無視した。
「鍋、沸いてるみたいよ」
「お?ああ」
片倉君が火を止め、俺がぬくぬくと包まってるコタツまで鍋を運んできた。
「できたぞ。俺特製の鶏鍋だ」
「わ~い待ってました~~」
鶏と豆腐、牛蒡と葱がぐつぐつと音をたてて煮えている。
シンプルな鍋だけど美味そうだ。食い物なんか何でもいいとは思うけど、こうやって出来たての料理を見るとやっぱ手作りっていいなあと思う。
片倉君はあんまり凝った料理は作らないけど、味はとてもいい。
というのも、彼は料理をする時は自分で作った野菜を使うのだ。
片倉君は畑いじりが趣味で、休日には近所の農家の手伝いをしている。
その熱意と腕を認められて、今では自分用のスペースを分けてもらってるらしい。農家のおばちゃんたちの間では王子様みたいな扱いを受けているんだとか。
こんな強面で王子様もないだろって思うけど、でもよく見れば男前だしな。会社の女の子にも普通にモテてるし、羨ましいことで。
ほんと、俺なんかと年越ししなくても、もっとステキな子がいるだろうにねえ……
片倉君が台所に引き返し、冷蔵庫から缶ビールを持ってきた。
俺たちは缶のまま乾杯し、腹が減っていたのでしばらくは無心に鍋を食った。
遠くで鐘の音が聞こえる。どこかの寺が除夜の鐘をついているのだろう。
俺は満腹になった腹を撫で、コタツに入ったまま横になった。
片倉君はビールから日本酒に切り替え、一人でちびちびと飲んでいる。
「いや~、今年も終わるねえ。あっという間だったなあ」
「…そうだな」
「今年はホントにびっくりイヤーになったわ。まさか片倉君とこうなっちゃうとはねえ」
「………」
「片倉君にとってはどう?今年ってどういう一年だった?」
すると片倉君はお猪口をコタツの上に置き、ふうと一つため息をついた。
「…日本人は、とかく年末になると物を忘れたがる」
「…うん?」
「忘年会だ、年忘れだと言って……除夜の鐘も、煩悩を捨て去るためのものだ」
「そうねえ…」
「今年あったことを、何があっても忘れないようにするって発想は日本人にはあまりねえよな。臥薪嘗胆ってのがつくづく合わねえ国民性だ」
「まあ……?」
片倉君が何を言いたいのかわからず、俺は彼の顔を伺い見る。
「そのこと自体に不満があるわけじゃねえ。忘れるってのは大事なことだ。だが俺は、今年あったことは何があっても忘れたくねえ」
「………」
片倉君がまっすぐな瞳で俺の目を覗き込んでくる。
「俺は今まで恋愛のことを一通りわかったつもりでいた。それなりの場数を踏んだしな…もはや己には色恋なんぞに振り回されないだけの胆力が身についたのだと、そう思い込んでいた」
「ふーん」
「だがそれはまったくの間違いだった。今までのものはただのゴッコ遊びだった。真剣勝負の恋ってのがどんなものなのか、俺はまったく知らなかったんだ。…てめえと出会うまではな。赤子も同然だった」
俺はぱちぱちと瞬きをした。
「なんだか無性にむず痒いんだけど、……ひょっとして、俺様今愛の告白をされちゃってる?」
「茶化すんじゃねえ」
片倉君がぎらりと俺を睨んだ。
「俺は今年お前との間に起きたことは絶対に忘れたくねえ。この心自体も捨て去りたくねえ。あんな鐘、何発鳴ろうと俺には関係ねえ」
「あんな鐘って言いなさんなよ…和尚さんが頑張って鳴らしてるんだろうに」
「例え誰に責められようと、忘れろと言われようと、俺はそんな声に屈したりはしねえ。薪の上に寝てでも、肝を舐めてでも、俺はお前に対して抱いた気持ちを忘れねえ」
「なんだよそれ。俺は親の敵かなんかかっつーの」
俺は鼻で笑った。臥薪嘗胆ってのは、普通は憎い相手から受けた屈辱を忘れないようにするとかそういう時に使う言葉だと思うんだけど。
「敵みたいなもんだ」
片倉君がにじり寄ってくる。
「俺が今まで築き上げてきた常識だとか自負だとか、そういうものを粉々にしてくれたんだからな」
「そりゃあすいませんでしたねえ」
俺の身体の横に両手をつき、至近距離で覗き込んでくる片倉君を、俺はにやりと笑って見つめ返した。
「そんなら、記憶から消えないようにいろいろご協力しましょうかね」
片倉君の首に両手を巻きつけ、彼の顔を引き寄せる。
「やることやれば、多少は忘れないための足しになるんじゃない?」
「…違いねえ」
ありがたい鐘が鳴り響く中、俺たちは啄むようなキスをしながらお互いの服を脱がし合った。