船内悪事
サヤは隠れていた。ポーラータングの人のいないミーティングルームで一番すみっこの机の下にしゃがみ、クマ耳帽子をぎゅっと引っ張って、ドキドキしながらベポを待っていた。
カチャン、と小さな音をさせてドアが開き、ベポがすべりこんできた。サヤのいる机の下にさっと入り込み、目的のブツを見せる。
見事に目的のブツを入手してきたベポを見て、サヤは顔を輝かせた。
「ベポ……勇者さまだよ!」
「ふふふ! 冷めないうちに早く食べちゃおう」
「証拠隠滅だね!」
分け合ってあーんと二人でかぶりついたと同時に、ミーティングルームの扉が開かれた。
「現行犯! 確保ー!!」
◇◆◇
ペンギンとイッカクに呼ばれてローが甲板に行くと、ベポとサヤが反省札を下げて正座していた。
「ぶ……っ」
しょぼんと正座しているサヤを見て、ローはとっさに横を向いて腹筋に力を入れた。
前に同じ状態になったサヤを散々笑って、拗ねられたことがあるのだ。
(こういうことは先に言えよ……!)
ペンギンを睨み、なるべくサヤを視界に入れないよう気をつけて、看守よろしく腕組みしているペンギンとイッカクのところに行く。
『ぼくは厨房からおやつの揚げたてドーナツを盗みました』
ベポの反省札にはそう書かれていた。
サヤの反省札には、
『私は盗んだドーナツをもらいました。共犯です』
と書かれている。
盗み食いでとっ捕まって正座させられているらしい。
「そそのかしたのはどっちなんだ?」
ローが尋ねると、サヤとベポはそろって顔を見合わせた。お互いにきょとんとした顔をしている。
仲間を売ろうとしない姿勢は褒めるべきだろうか。
「キャプテン。面白がってないで叱ってくださいよ」
ペンギンの進言に、サヤとベポは震え上がった。
二人とも、船長からの叱責を心底恐れているらしい。
(別に盗み食いくらいで……)
そんなにうるさく言わなくてもいいだろ、というのがローの本音だ。
「……美味かったか?」
船長の質問に、二人は顔を輝かせた。
「すっごく美味しかった!!」
声を揃えて言うと、サヤは一生懸命、説明し始めた。
「揚げたてだからアツアツで、さくさくで、中はふわふわしてたの!」
「隠れて食べるおやつって美味しいんだよね〜」
二人とも幸せそうだった。ならばローが言いたいことは一つだけだった。
「次は捕まらないように上手くやれよ」
船長から許可が出て、二人は「大好きキャプテン!」のハート光線をローに注いだ。
クルーから尊敬の眼差しを向けられるのは悪くない気分だった。
ため息をついて、イッカクが二人の反省札に書き足した。
『反省してません。またやります!』