青マリン

2023/05/03
BACK 短編

船内悪事



 サヤは隠れていた。ポーラータングの人のいないミーティングルームで一番すみっこの机の下にしゃがみ、クマ耳帽子をぎゅっと引っ張って、ドキドキしながらベポを待っていた。

 カチャン、と小さな音をさせてドアが開き、ベポがすべりこんできた。サヤのいる机の下にさっと入り込み、目的のブツを見せる。
 見事に目的のブツを入手してきたベポを見て、サヤは顔を輝かせた。

「ベポ……勇者さまだよ!」
「ふふふ! 冷めないうちに早く食べちゃおう」
「証拠隠滅だね!」

 分け合ってあーんと二人でかぶりついたと同時に、ミーティングルームの扉が開かれた。

「現行犯! 確保ー!!」


◇◆◇


 ペンギンとイッカクに呼ばれてローが甲板に行くと、ベポとサヤが反省札を下げて正座していた。

「ぶ……っ」

 しょぼんと正座しているサヤを見て、ローはとっさに横を向いて腹筋に力を入れた。
 前に同じ状態になったサヤを散々笑って、拗ねられたことがあるのだ。

(こういうことは先に言えよ……!)

 ペンギンを睨み、なるべくサヤを視界に入れないよう気をつけて、看守よろしく腕組みしているペンギンとイッカクのところに行く。

『ぼくは厨房からおやつの揚げたてドーナツを盗みました』

 ベポの反省札にはそう書かれていた。
 サヤの反省札には、

『私は盗んだドーナツをもらいました。共犯です』

 と書かれている。
 盗み食いでとっ捕まって正座させられているらしい。

「そそのかしたのはどっちなんだ?」

 ローが尋ねると、サヤとベポはそろって顔を見合わせた。お互いにきょとんとした顔をしている。
 仲間を売ろうとしない姿勢は褒めるべきだろうか。

「キャプテン。面白がってないで叱ってくださいよ」

 ペンギンの進言に、サヤとベポは震え上がった。
 二人とも、船長からの叱責を心底恐れているらしい。

(別に盗み食いくらいで……)

 そんなにうるさく言わなくてもいいだろ、というのがローの本音だ。

「……美味かったか?」

 船長の質問に、二人は顔を輝かせた。

「すっごく美味しかった!!」

 声を揃えて言うと、サヤは一生懸命、説明し始めた。

「揚げたてだからアツアツで、さくさくで、中はふわふわしてたの!」
「隠れて食べるおやつって美味しいんだよね〜」

 二人とも幸せそうだった。ならばローが言いたいことは一つだけだった。

「次は捕まらないように上手くやれよ」

 船長から許可が出て、二人は「大好きキャプテン!」のハート光線をローに注いだ。
 クルーから尊敬の眼差しを向けられるのは悪くない気分だった。

 ため息をついて、イッカクが二人の反省札に書き足した。

『反省してません。またやります!』

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