青マリン

2023/04/15
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304.女子会





「なんでこうなっちゃったのかなぁ……」

 観光客向けのおしゃれなレストランのテーブル席で、サヤはしょんぼりしながら酒入りドリンクをストローですすっていた。

「サヤも別れるって言ってたじゃん」

 向かいに座ったイッカクは冷たい。なぐさめる口実で船長に禁じられていた上陸を果たしたものの、酒が飲みたかっただけなのは明白だった。

「だって船のルール違反になっちゃうから。一時的なつもりだったのにキャプテンに振られちゃった……」

 ぐすん、とサヤは鼻をすすった。隣に座ったベポ(リボン付き)が肉球でよしよししながらなぐさめて、ジャンバール(リボン付き)がティッシュを渡してくれた。

「サヤはパニックになると言葉足らずになるね」

 なぐさめつつ、ベポが原因を分析した。

「みんなは違うの? びっくりして焦るとうまく言葉が出てこないの……キャプテンそれで嫌いになっちゃったのかな」

 あの「お別れする」発言にローも驚いていたのは確かだ。

「だってキャプテン、ハートの海賊団をやめるなんて言うんだもん……」
「それだって一時的だったのかもよ? 二人きりになれるしちょうどいいと思ったのかも」

 イッカクの考察はサヤにとって青天の霹靂だった。

「そうだったの……!? なら一緒についていくのに!」
「推察を事実だと思いこむのは危険だと思うが……」

 冷静なジャンバールが控えめに口をはさんだ。
 フォークで突き刺した大きい肉の切れ端を人差し指の代わりに伸ばして、「考えてもみなよ」とイッカクは事実を口にする。

「うちの海賊団、船長とサヤがいなかったら回らないでしょ。多趣味な個人主義者が多いし、二人がいなかったら海賊なんてやめて趣味に生きるよ。ペンギンじゃまとめられないでしょ。みんな船長とサヤを世話するために船にいるようなものなんだから」

 確かに!!とサヤは全面的に同意した。

「キャプテンってお世話したくなるよね」

 サヤは自分が世話される立場なのはよくわかっていなかった。

「困ったペンギンが船長に戻ってくださいって泣きついて、まんまと船長はサヤ連れて戻るのが目に浮かぶよ」
「なんて完璧な作戦! ちょっと性格悪いのも含めてキャプテンっぽい……!」

 サヤは感動している。
 ため息をついてイッカクは話を戻した。

「サヤが別れるって言って全部ポシャったけどね」
「だってそんな作戦知らなかったから……!」

 わーんとサヤはベポに泣きついた。
 呆れてジャンバールがイッカクにイエローカードを出した。

「なぐさめるための会なのにとどめを刺してどうする」
「事実から目をそらし続けるわけにもいかないだろ」
「レッドカードになったら船に強制的に連れ戻すからな」
「サヤが作戦わかってないくらいで別れるキャプテンが全部悪いね!」

 酒のために手のひらを返してイッカクは全部ローの責任にした。
 さらにイエローカードを帳消しにするべくささやく。

「仲直りしたけりゃいい方法があるよ、サヤ」
「本当!? キャプテンが一度言ったこと撤回する方法がある!?」
「そんな方法あるかなぁ」

 一番付き合いの長いベポが首をかしげた。
 経緯に誤解があったとしても、ローは一度決めたことは滅多にくつがえさない。だからこそ船長決定は重いのだ。
 魔法の手札をイッカクは説明した。

「とりあえず、しばらくはお互い頭を冷やす。少し時間があけば、キャプテンも考えを変えやすくなるだろうし」
「……その間にキャプテン浮気しないかな?」
「するかもね。でもそれはサヤが悪いし」

 わーんとサヤはまたベポに泣きついた。
 2枚目のイエローカードが出されて、「次で退場だぞ」とイッカクはジャンバールに釘を差された。
 サヤはべそべそ泣いて訴えた。

「キャプテンこういうとき絶対浮気するんだよ……」

 サヤをなぐさめながら、ベポも困った顔で頷いている。船長には前科があるのだ。

「そんな露骨なことを船長がするか……?」

 ジャンバールは懐疑的だ。大恩があるので彼はローに好意的だった。
 困った顔でベポは説明する。

「サヤと別れたのに耐えられなくて浮気するパターンだよ」

 あー、とイッカクも頷いた。

「耐えられそうにないもんね。自分からは行かなくても誘われたらズルズルしそう。今すごい隙だらけだし。変な女に引っ掛かりそう」

 いてもたってもいられず、サヤは立ち上がった。

「キャプテンの浮気を阻止しなきゃ!」
「え。どうやって?」

 心底不思議そうにベポに聞かれてサヤはうろたえた。愛人だったら嫌だと言う権利があるし、サヤが嫌だと言えばローは聞いてくれただろう。でも今はただの船長とクルーだ。

「ええと、ええと……いざとなったら力ずくで!」

 サヤが力ずく!?とみんながびっくりしている間に、サヤは飛び出していってしまった。
 ぽかんとそれを見送り、ジャンバールは気になっていたことを尋ねた。

「仲直りのいい方法は、結局なんだったんだ?」
「夜這い」

 イッカクの返事は簡潔だった。

「しばらく冷却期間置けば、キャプテンは秒で落ちるよ。サヤ依存症だし」

 ぽつりとベポが「夜這いって?」と聞いたが、イッカクもジャンバールも聞こえなかった振りを通した。

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