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第5話 導きの知らせ

三人ではじめた生活は、なんとも奇妙な関係だった。
というのも、滞在を決めたこの世界では、シュレディンガーが知り得る王と世界の調和は存在しなかったのだ。
むしろ飲み下せない飴玉が喉にひっかかったような、そんな違和感ばかりが増えてゆくばかり。
 (なんだかはっきりしないもやもやした気持ち…!)
口を尖らせ、快晴の空を見上げて運命の黒猫はため息を吐き出す。
光の海に漂う希望の泡たち、その中に宿る世界を治める王は世界の中ではすべての権限があるもの。
それにも関わらず、王であるアスターの権限力は弱々しく、ファルの補助なしでは昼を夜にすることすらできなかったのだ。
また補助をするファルは一冊の不思議な本を所持しており、それのページを開いては読み上げ、弟を補助をしているのだからなんとも不思議極まりない光景である。
シュレディンガーは珍しそうにその本を眺めながら、アスターが夜の帳をおろす姿を見つつ、彼の補助を当然といった顔でするファルに視線を向けた。
 (…変なの、まるでアスターはここの王様じゃないみたい…)
二人を見ながら頬杖をつき、ふと浮かんだ感想にシュレディンガーは尻尾を揺らす。
 (…もしかして、王様じゃない?)
ゆっくりと濃紺色の夜空が舞い降り、やがて星々の輝きが見え始める。
時間を掛け、ようやく幾日か振りに夜を迎えた世界の姿にアスターは胸をなでおろし、目の端でシュレディンガーの様子を伺う。
尻尾をゆらゆらと揺らす彼女は、自分ではなくファルを見つめていた。
なんだかすこし寂しいような気持ちに口元を固く結び、なにごともなかったようにアスターは夜空を見上げる。
 「ひさしぶりだけど上手くいってよかったな、アスター」
ファルの声に静かに頷き、安堵のため息が自然とこぼれる。
 「ああ、本当だよ…助かったよ、ありがとうシュレディンガー」
二人の言葉に立ち上がったシュレディンガーは、穏やかに首を横に振る。
 「いいのよ、私はやるべきことをしただけ、あと…いますぐ確かめたいことができたわ」
そう告げたシュレディンガーはなにかを決意したように耳を立て、アスターの隣へと立つ。
なにごとかと心臓を跳ねさせたアスターは、小柄で愛らしい運命の黒猫を瞳に捉えた。
紺碧の瞳は迷いなくアスターの瞳だけを覗き込むようにすると、あろうことか彼の手を強く握ったのだ。
 「なっ!?」
あまりに突然だったため思わず手を引きそうになったが、シュレディンガーはそれを許してはくれなかった。
握られた手から伝わる体温はなぜかいけない事を知ってしまったような気持ちにさせてくるし、この光景をファルに見られていることが恥ずかしい事のように思えてくる。
 「シュ、シュレディンガー!なんなんだ、一体!」
もはや限界だと、上擦った声をあげたアスターとは相反するように、シュレディンガーは冷静だった。
 「私、あなたを知りたいの」
それは合図だった。
シュレディンガーの身体が光を放ったと思った瞬間、肩まで揃えられていた髪はすらりと腰まで伸び、彼女の服装も反転したようなデザインへと変貌したのをアスターは驚き見た。
 「な、なんだって!?」
長い青髪を揺らめかせ、やや大人にも見えるほどに風貌の変わったシュレディンガーは穏やかに笑む。
 「君の中、すこし見させてもらうね?」
シュレディンガーの声は世界の刻を止め、驚いたまま止まったアスターの胸に額を寄せる。
目を閉じれば頭上に輝く幾千の星々のように文字群が現れ、彼という存在のすべてをシュレディンガーに認識させてゆく。
欲しかった答えはそこに確かにあり、納得と満足を得たシュレディンガーは彼に潜ることを終えた。
 「君は、いったい!」
再び動き出した刻の中、もう長い髪のシュレディンガーはどこにもいなかった。
そこには出会ったままの運命の黒猫がおり、自分という存在を覗かれたアスターは顔色を悪くしている。
 「おや、もしかして知ってしまったのかい?」
ファルの言葉にシュレディンガーは頷き、ようやく彼の手を放す。
 「やっぱりねって所かな、ファルは知ってたんだね…?」
 「ふふ、そりゃあね?」
自分の与り知らぬところで進む話にアスターは冷や汗をかきつつ、ファルに助けを乞うように視線を向ける。
 「ファル、一体なんの話なんだ…オレはいったい…」
不安そうなアスターの手を再び握り、シュレディンガーは決意のこもった眼差しで告げる。
 「私はあなたをここから連れ出すよ、どうやらその為に呼ばれたみたいだから!」