光の海、その気泡の数だけ存在する世界は生まれると同時に、王も存在を位置づけられるもの。
アスターのいる世界も例外なく、世界が生まれた日に王が生まれた。
「待って…あなたたちが双子って、本当なの?」
「ああ、間違いなく」
王の権限を持つ者は唯一の存在。
それが双子として生まれることなど、シュレディンガーは見たことがなかった。
どんな世界であっても王はたったひとりきりのはずで、どう考えても双子では王にはなりえないのだ。
「双子のせいで兄のファルはラプラスの瞳を、オレには世界を芽吹かせる能力が分けられてしまって…」
「ラプラスの瞳!」
思わず声を上げてしまったが、アスターは無理もないといった風に目を細めるばかり。
シュレディンガーが驚いたラプラスの瞳。
それは予知能力を秘めた生まれながらの祝福の力のことで、とても稀有な贈り物でもある。
予知能力といえども全ての未来を見通せるわけではなく、ほんのすこし先の限定的な未来が分かる便利な力。
しかし、使い方によっては危険を回避、あるいは幸福を意図的に呼び寄せることも可能で、未来を変え得る可能性を秘めたおそるべき特性ともいえた。
「ラプラスの瞳の持ち主でも、この未来を変えることはできなかったの…?」
シュレディンガーが指し示したファルが眠り続けることを憂いつつ、アスターは口を開く。
「最後に告げられたのは心配するな、とだけ…」
「そう…」
すっかり気落ちしてしまったアスターを気遣うように、シュレディンガーは声色やさしく問い掛ける。
「それで、アスターの世界を芽吹かせる力っていうのは?」
「ああ、これに関しては見てもらった方が早いだろう」
そういうとアスターはしゃがみ込み、己の足元の草花へと手を触れた。
彼が触れた途端、草花は覚醒したかのように目を見張る勢いで急成長すると、あっという間にシュレディンガーの膝丈をすっかり越えてしまったではないか。
「すごい…!もしかして、すべての生き物を急成長させることができるの?」
「いや、試してみた限りでは植物や木だけだったな」
「そう、じゃあ…ファルのあれは…」
「俺の能力が暴走した結果だ、力が抑えきれなくて…」
肩を落とすアスターは、自分の王としての能力が非常に未熟であることを教えてくれた。
本来であれば制御できるはずの力は意図せず暴走し、兄であるファルを捕らえると眠らせてしまったのだという。
「アスターの意志で目覚めさせることはできないのね?」
「ああ…何度も試したがダメだった…」
紫電の瞳を伏せ、この世の不幸を噛み締めるような表情を浮かべるアスター。
そんな彼を見つめるシュレディンガーの紺碧の瞳は彼の気持ちとは正反対に、どこまでも優しい色に染まっていた。
「私なら起こせるよ」
運命の黒猫の言葉に瞳を開けば、彼女を見たアスターがたじろぐほどに黒猫は穏やかに笑っていた。
「…ファルを?本当に?」
「ええ!だってそうしてほしくて、私を呼んだのでしょう?」
自信に満ち溢れた笑顔のシュレディンガーは眠り続けるファルの前に立ち、その手をかざす。
アスターが自分を守ろうと手を伸ばしてくれた、あの瞬間。
たったわずかなそれだけでも十分すぎるほど、彼が自分を呼んだ存在であると確信した。
助けを呼んでいたのは間違いなくアスターであるのに、なぜ彼が自分を呼べたのかまでは分からない。
それでも彼の助けになるべく、自分は今なにをすべきかを理解しているシュレディンガーに迷いはなかった。
「私は運命の黒猫シュレディンガー、すべての可能性をもっているんだから!」