+++ 眠り姫 +++

 「…何をしている?」
ファルコンに戻ったエドガーがまず放った言葉がこれである。
後ろに続いていたリルムが、エドガーが見た光景を彼の後ろから覗き見て思わずギョッとする。
 『うわぁ…これ地雷ってヤツじゃ…!』
そこにはソファに深く腰掛けティナに膝枕をし、退屈そうにタバコをふかすセッツァーの姿があった。
肝心のティナは相当深い眠りに落ちているようで、エドガーの声も届かない様子である。
今日はリルムの画材と共に、パーティの日用品を買う為にエドガーとリルムが買出しに出たのだ。
他のメンバーはそれぞれ勝手気ままに過ごす、という事に決まっていたのだが…。
 「何をしている?」
エドガーは再度問い掛けながら二人の傍に歩み寄り、セッツァーを上から見下ろす形になる。
 「何って…ティナがコレ読んでくれっつーから…」
セッツァーが片手に取り出したのは一冊の童話本。
見覚えのある表紙にリルムが割って入る。
 「それって…昨日、色男がティナに読んであげてたヤツじゃ…?」
モブリズで母性を身に付け戻ってきたティナ。
しかし、根本的な「幼い心」はそのままで、時折、エドガーやセリス相手に童話話を強請ることがあった。
特にエドガーは王としてフィガロに戻る度に、自ら図書館に出向き何冊も童話本を持って戻ることが多かった。
最近はその本にもっぱら夢中のティナは、甘く語るエドガーの話し方が大層気に入ったらしく彼の傍に付いて離れなかったのだが。
 「…確かに昨日の夜、ティナが眠りに落ちる前に読んであげていたものだ…」
本を手に取りパラパラとページを捲るエドガー。
昨日、自分が話してあげた部分からかなり進んだ所に、一枚のトランプが挟まっていた。
 「で、読んでくれっつーから読んでやったら、このザマな訳よ?」
セッツァーは相変わらず気だるさそうに膝の上のティナを指差して、煙を吹きかけて見せる。
そんなタバコ攻撃に身じろぎもせず、ティナは呼吸を乱さず眠り続けている。
ここまで無防備に眠るティナを見た事がないリルムは、まるでガラス細工に触れるかのように彼女の髪に指を絡めてみる。
ティナの翡翠色の髪は簡単にリルムの指に巻きついた物の、音も立てずにするりと指から離れる。
 「こらリルム、ティナで遊ぶんじゃないよ?」
エドガーがリルムの小さな手の動きを制すと、今度はその大きな手でティナを軽々と抱き上げてしまう。
小さく「ぅん…」と声をあげたものの、ティナは何も無かった様にエドガーの腕の中へと収まると、また寝息を立て始める。
その様子に満足そうに微笑むと、彼女の額にそっと口付ける。
 「あまり私の楽しみを奪わないでくれないか、セッツァー…?」
視線はティナに釘付けのままに呟くと、セッツァーから本を受け取り彼女の自室へと足を向ける。
扉が閉まるまでその姿を見ていた二人は、はぁ…と重いため息をはくとお互いを見合わせた。
 「…なんつーか、な…?」
 「うん…」
エドガーに抱きかかえられるティナは寝ていたものの、まるで「在るべき場所へ戻った」というような表情に見えて…。
 「やっぱりティナにとっては、色男が一番なのかなぁ…」
まるで玩具を取られたような、そんなモヤモヤした気持ちでリルムが呟くとセッツァーはクツクツと喉で笑う。
タバコを灰皿に押し付け、その火を消すと肺に残っていた煙を吐き出して小さな絵描きの頭をゴシゴシと乱暴に撫でる。
 「ちょ、おぃ!髪形が崩れるじゃん!!」
年頃の女の子らしく、慌てた様子で髪型を気にするとセッツァーを一睨みする。
慣れた様子でフンと鼻であしらうと、傷だらけのギャンブラーは自分に言い聞かせるように呟く。
 「まぁ、お姫様の相手は、オレやお子様じゃムリって事だろうよ…」




出来るだけ静かにティナをベットに沈ませると、結い上げている髪を止めているリボンを解く。
解放された翡翠の髪達はフワリとシーツに舞い、その幻想的な姿に思わず時が止まったような感覚に陥らせる。
エドガーの手が完全にティナの身体から離れると、今まで開く素振りの無かった瞳がうっすらと光を宿す。
 「…起こしてしまった…?」
旅の始めから聞きなれた甘い声に、ティナの口元が声を成さずに「エドガー」と開いて呼びかける。
自らの重みでそれ以上ベットが沈まないよう、エドガーは敢えて床に跪いてティナの頬に手を添える。
 「そのまま、もっと寝ていても良いのだよ…?」
彼の甘い囁きにほぅ…と息をはいて、ティナはまた瞳を閉じてしまう。
それでも、頬にあるエドガーの手に指を絡ませるとこう告げた。
 「私…エドガーに読んで欲しかったの…」
その声はまだまだ寝足りない様子で、少しまどろんでいる。
ティナの頬から絡み付いてくる指に手を移し、その指にキスを落とす。
 「大丈夫…また、今夜読んであげるから…」
そして、彼女の耳元で「だから、今はおやすみ?」と呟くと今度こそティナは安心した様子で眠りに落ちていく。
 「やくそく、ね…?」
それだけ言うと規則正しい寝息が聞こえ始め、完全に意識を手放した事が分かった。
先程の本からトランプを取り出し、自分が昨日読んだ所まで戻り差し込む。
 「おやすみ、私の眠り姫…」
その赤い綺麗な装飾を施された本の背には「眠り姫」と題されていた。





+++ あとがき +++

少し甘めのエドティナでした。
もうタイトルでオチを言ってしまっているので、どうかなーと思ったのですけど…、うぅむ…。
「ティナにはエドガーが似合う」的な話が欲しくて、自分で書いてみました。
自然と二人で居るのが様になる…。
そんなようなカップル希望なのです…って、それならロクセリのがいいのかッ?!