no title

8-627様

 きみはとっても綺麗だね。
 汚してほんとにすいません。
 本当は反省なんてしてません。
 それも含めてすいません。
 悪いことだとはちっとも思っちゃいないけど、
 なんだかとっても、きみに悪い気がする。


きみのはあついかな? かたいかな? 甘いかな苦いかな?
たとえばそんな手のひらで舌の上でとらえたときの、
そんなものを夢想するだけでからだの奥がじゅんとなる。
誰もいない部屋の中、ぼくはひとりでベッドの上に横になる。
雨の続くじめじめとした空気の中、どことなく湿ったシーツの上、薄くて水色のタオルケットにくるまって、ぼくは自分のそこに指を這わせる。
入り口のところは乾いていたけど、奥に指を進めるとやっぱり、指先に絡みつく。
こういうことを覚えたのはずいぶん昔だけど、そのときはこれがどんなものなんてわかっていなかった。
ただ自分にひらいた穴があること、何度も何度も出し入れしているとぬるぬるしてくるのが面白くて、
誰もいないときにこっそりいじる遊びに夢中になった。
どんな意味を持つのかわかってからは、意識してこの遊びに耽溺した。
かき混ぜてるときはなにも考えなくていい。
ぼんやりとした意識の中で、ぼんやりと声をあげながら、
なんとなく白くてなんとなく掠れた世界に沈んでいける。
中指をもっと深く入れ込んで折り曲げてこするように動かして、親指は外の突起をぐりぐりする。
息はなんとなく荒くなってきて、汗はじっとりとからだを包む。
裸になっているわけでもない、いつもの服に、下着をずらして入れている手。
右手は下に、左手は胸に。
もぞもぞと動いて、は、ん、あ、息が漏れる。
あり得ない話、きみがいきなりこの場に現れてこんなぼくを見つけることを想像した。
馬鹿正直に左手の感触はかたくなり、右手の感触はぬめりを増す。
は、ん、あん。
ひらいたなかをもっとひろげてほしくて、指をもう一本増やす。
ひとさしゆびとなかゆびで、ゆっくりゆっくり出し入れをする。
目をかたく瞑って焦点の合っていない思考で繰り返すと、この腕を動かしてるのは自分じゃないような、
この中を行ったり来たりしてるのは自分じゃないような、そんな妄想じみた想いが背筋を駆け上る。
「んあ……もっと、んっ」
ぼくはあいつのことを考える。
ぼくを見つめてくる、ある意味まっすぐなあの熱量。
あいつったら言ってることもやってることもヘンタイのくせに、あの目だけはまっすぐなんだ。
それに比べてぼくのこの有様といったら! あ、ん、とんだ乙女もいたものだ。
ぼくは自分が想像していたよりずっと女だったみたいだ。
あの目で射抜かれるたび、濡れちゃうだなんて、そんな、嘘だろ?
皮をむいて直にこする。中の抽送を激しくする。
くちゅ、くちゅって、静かな部屋にやたら響く。
ぼくのたったひとつの動物みたいな息も、同じように響いてしまう。
「ん……あん……」
きもちい。きもちいいけど、足りないよ。
もっと奥まで、もっと熱いのが、欲しいのに。

 くちゅ、ぐちゅ、ぐちゅぐちゅ。ん、ん、んん、……あん。

身体の力がゆっくり抜けて、ぼくは中から指を引きぬく。
満足したような、決定的にむなしくなったような、そんな微妙な気分。
ぼくはため息を大きくついた。
指先のにおいなんて嗅ぎたくもない。かといって動く気もしない。
ぼくはそのまま湿ったシーツに身体を埋めたままでいる。
きみが毎晩ぼくを思ってこんなことしてればいいのに。
ぼくを思ってこすったりこすったりこすったりしてればいい。
そしたらぼくたちおあいこで、こんな意味のわからない罪悪感とか、そんなの消えてなくなるだろう。
でも現実はぼく一人。
ぼくだけが、こんな風に粘膜をいじくりまわしてる。
ぼくはかたく目を瞑る。
きみが部屋に入ってきて、ぼくの上にのしかかって、キスして、いっぱいいっぱい突いてくれるのを想像する。
あいにく現実にならない、けれどその希望だけで現金なぼくのナカはまたもや反応する。
枕元からティッシュを何枚か抜き出して、ふき取って、ゴミ箱にくちゃくちゃに投げ入れた。
一個は外れて床に落ちた。


 悪いことだとはどこにも書いてないけど、
 なんだかきみに悪い気がする。
 何も知らないきみが綺麗で、
 ということはぼくは汚いのでしょうか?
 じゃあこれ以上汚くなる前に、早く早く汚しに来てよ、朴念仁。

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