「はい、お土産」
飛び乗ってきた相手の重みでベッドが揺れるのと同時に、上から何やら小さな塊が降ってきた。
あるものは読んでいた本の上で硬い音を立てて跳ね、あるものはシーツの上を転がっていく。
シーツ皺に納まるようにして止まったそれを摘み上げてみれば、飴玉ほどの大きさの球体が明かりを受けて歪んだ風景を映し出した。
傍らを見上げると、銀色の頭が首を傾げて反応を窺っている。
土産と称する物体は、単に一色であったり中に模様があったりと差異はあったが、そこかしこで売ってありそうな何の変哲も無いただのガラス玉だった。
これがわけの分からないものを持って帰ってくるのは珍しいことではない。嘆息して相手の手に戻してやる。
「無駄遣いはするなと言っているだろう。ガラクタ集めは程々にしろ」
「買ったんじゃないよ」
向こうもこちらの反応には慣れっこで、がっかりした様子も無くガラス玉を受け取った。
片割れはごろりと隣に横になると、手近な場所にあるガラス玉を指で弄び始める。
「今日シュライクに寄ったら丁度縁日やっててさ、連れが何かの景品で当てたらしいけど、いらないって言うから貰ったんだ」
呟いて爪先で弾く。シーツの波間でガラス玉がぶつかり合って、かちりと小さな音を立てた。
点在するガラス玉に規則性などない。それでも妙な懐かしさを感じるのは、各々が色の付いた影を落としている様が、青い海に浮かぶリージョンのシンボルにどことなく似ているせいだろうか。
資質を集めていた頃のように頻繁にリージョン移動を使うことがなくなったため、目にする機会も随分と減っていた。
「これなんか凄く綺麗だと思うよ」
片割れは、散らばった球体の中から一つ摘み上げると光に翳して見せる。
深く濃くそれでいて透き通った硬質の。こちらを見上げると、紅い目を細めて満足気に微笑む。
「君の色だ」
囁くと、それに軽く口付けた。
愛おしげにガラス玉を愛撫する仕草に、何となく面白くないものを感じて思わずその手を取る。
「どうかした?」
返ってきたのは形だけの質問と、期待するような眼差し。片割れの指に唇を這わせばもう一方の手が伸びてきて、垂れ下がった金糸に絡みついた。
ベッドから追い出された幾つかが、床を叩きながら寝室の隅に消えていく。
派手な音に眉を顰めるがそれも一瞬のこと、すぐに静寂を取り戻し、聞こえてくるのは互いの話し声と衣擦れの音、時折荒くなる呼吸音だけになる。
「本当は、食べ物を買って帰るつもりだったんだけど……こういうのは雰囲気で味わう物だって、言われてさ」
身体の下でうつ伏せになった相手は、与えられる刺激に合わせて身を震わせながら、のんびりとした調子で続ける。
開けて露わになった肩に口付ければ、熱の篭った吐息を漏らした。
「縁日は明日までやってるらしいから、一緒に行こうよ。リンゴ飴奢ってあげる」
「人混みは好きじゃない。それに、お前はあちこちフラフラするからな」
探すのが面倒だ。嘯く。単体で見ればそれなりに目立つ格好ではあるが、実際人波に紛れてしまえばあっさりと埋没してしまうだろう。
「そんなに広いところじゃないけど、首輪でも付けとく?」
肩越しに視線を寄越してくる。綱を付けたもののあちこち振り回される自分が容易に想像できて、頭を振った。
「そんなもので大人しくしてるタマか」
それを聞いて笑う相手の手に掌を重ね、指を絡めて握った。身体を密着させたまま、ゆっくりと、より深く自身を沈めていく。
散々慣らしたそこは熱を持ち、引き抜こうとすれば、慄きながらも逃すまいと締め付けてくる。
そのうち決定的な刺激に至らないのに焦れたのか、片割れは懇願するように掠れた声で何度も名前を呼んだ。それに応えて相手の腰を高く上げさせる。
「んんっ!……はぁ、あっ、あっ!」
相手のことはよく知っている。愉いところを穿ってやれば、シーツに縋るようにしてくぐもった声を上げた。
そのうち互いに喋る余裕を無くし、ただ只管無言で貪り合う。やがて絶頂を迎え、余さず熱を注ぎ込めば、相手もまたぐったりと力を失った。
自身を引き抜き、相手の上から転がるようにして降りると、仰向けになる。片割れもまた倣うように仰向けになると、大きく息を吐いた。
重い首を巡らせて隣を見やると、相手もこちらを向いて、紅潮した顔のままぼんやりとした笑みを浮かべる。
「……、ぅ」
微かに動いた口から零れたのは、自分の名前。
余韻に浸るその顔を眺めるうち、倦怠感や労わる気持ちはどこかへ行ってしまい、息を整え切らない相手を抱き寄せて口付け、そのまま徐に圧し掛かった。
「ふっ……あ、ちょっと!」
途端、下から慌てた声が上がる。
「だ、め……っ、も……いった、から……ぁ!」
先程自分のもので満たした場所を、再び指で開いていく。
もがくものの押し退けるだけの力は無く、敏感になった身体は些細な刺激にすら過剰に反応を返した。
相手は首を仰け反らせて泣きじゃくりながら、制止の言葉を繰り返す。
自分はこんなに自制の効かない人間だっただろうかと思いながらも、今更止められるわけも無く。
力なく広げられた足の間に割り込むと、口とは裏腹に歓迎するそこに包み込まれ、欲情に任せて蹂躙した。
「君、淡白そうに見えるのに結構激しいよね……」
腕の中でぐったりする銀髪が、恨めしげに呻いた。
「お前が流されやすいんだ」
そう、こいつのせいだ。思ったよりも溺れているのは自覚しているが、それを言葉にするのは少々癪だった。代わりに緩慢な仕草でその髪を撫でてやる。
「まあ、気持ちの良いことは好きだからね」
片割れも撫でられるのがすっかり当たり前になっていて、手から外れないよう器用に体勢を変えると、
追放を免れたガラス玉を手元に集めて遊び始める。お気に入りなのか、選り分けられて丁寧に並べられていく複数の青い影。
「……首輪は必要かもな」
思わず溜息を吐く。聞こえたのか聞こえてなかったのか、きょとんとする片割れの首に、軽く噛み付いた。