自分と正反対の色を間近に見下ろせば、ソファがくたびれた声を漏らす。相手も慣れたもので、膝の上に広げていた本に栞を挟むと、脇へと追いやった。
それを見届け、ゆっくりと顔を近づける。澄んでいるようでいて、深く底の見えない深淵に引き寄せられ――
「あのさあ」
寸前でぴたりと止め、体を離す。
わざとらしく溜息を吐いてみせるが、相手は軽く瞬きしただけで表情は変わらない。
「そんなガン見されると、やり辛いんだけど」
射抜くような視線に気圧されて、思わず目を逸らせてしまう。
そういう奴だと分かっているが、自分だけが余裕がないというのが、どうにも癪だった。
「こういうのは、相互協力が必要なんじゃないかな」
「ムードは気にしないんじゃなかったのか」
耳の横に垂れた銀の房を緩く引かれた。温かい掌が頬に触れ、顔を上向かせられる。
多分、今までもこうして自分を見ていたのだろう。この青い瞳は何も変わっていない。
気にしたことがなかったのは結局のところ、元々相容れる関係ではなかったのもあって、相手を必要としているのは自分だけだと思っていたからだ。だからどんな痴態を晒しても、どこか他人事のような気すらしていた。
手の感触にはっきりと相手の存在を感じてしまって、顔が熱くなる。
「今更、おかしいのは分かってるよ」
満たされると同時に、酷く落ち着かない気分になる。
君はいつだって平気そうなのに。唸るように呟けば、唇に押し当てられる感触。
軽く食むような口付けの後、ソファへと押し倒される。
見下ろしてくる視線から逃げるように、腕で顔を覆い隠した。
「別に余裕があるわけじゃない」
腕は簡単に解かれ、押し付けたせいでくしゃくしゃになった前髪を指で梳かれる。
「怖いのなら目を閉じていろ。すぐに気にならなくなる」
覆い被さってきた相手の、低く囁く声が鼓膜を擽った。
「別に怖いわけじゃ、あっ……!」
合わせ目から差し入れられた手が肌の上をなぞり、小さく息を呑む。
普段他人に触れさせることのない部分を、余すところなく暴かれていく。
与えられる感触に簡単に全てを委ねてしまうこの体を忌々しく思うが、
一見冷ややかに感じられる瞳に欲情の色が浮かぶのを見てしまえば、引き返すことなどもう考えられなかった。
自分の顔が綻ぶのが分かる。目を閉じるなんて勿体無い。先程までの気恥ずかしさを忘れて、青い法衣を掴んだ。
「ねえ」
その顔を見上げ、掠れた声で呼び掛ける。
「入れさせて下さいって、お願いしてみなよ」
「入れて下さい、の間違いだろう」
低く笑う声。釣られて笑みを零す。
「素直じゃないね」
「お互いにな」
必要とし必要とされているからここにいる。それだけで十分だった。この体温を離さないよう、掴む指に力を入れる。
相手はそれを緊張のせいだと解釈したのか、瞼に気遣うような口付けを落としてくる。訂正はせずに受け入れ、安堵のポーズを取ってみせる。
「丁寧なのもいいけど、あんまり焦らさないでよ」
そう、十分。内心呟いて、相手の体を強く引き寄せた。