すっかり灯の消えた店内で一人、何度目かの溜息を吐いた。
テーブルの上にはアクセサリが二つ、暗がりの中で窓の外からの光を受けて鈍く輝いている。
一つは、トリニティの基地に潜入した際にそこの執政官から譲り受けた、天使を模ったブローチ。
もう一つは、悪霊からの魅了を防ぐ魔除けのペンダント。
紫色の石は内部に黒い部分があり、光の加減によって猫の目のように細く太く変化することから、パープルアイと呼ばれている。
他所の女に惑わされないように、と冗談半分本気半分で恋人に贈ったものだった。
――結局、自分から彼を奪っていったのは女性ではなく、『キューブ』とかいう古代文明の遺産とやらだったが。
紫色の玉に指を乗せて撫でると、逃げるように転がっていった。
顔が良くて、人当たりも良い。少し頼りないところがあるし、安月給だけどそんなことは問題ない。二人ならきっと幸せになれる、そう信じていた。
いつから、なのだろうか。彼が変わってしまったのは。記憶を手繰るが、兆候らしいものは無かったように思う。
何とか原因を探し出そうとするが、その度に彼の姿は歪み、曖昧になっていく。そのうち顔すら思い出せなくなってくる。彼は一体誰だったのだろうか。
『それは、君の方がよく知っているのではないかね』
グラディウスに身を置いて、後を追ううちに繋がっていくピース。
自分は彼のことを何一つ知らなかったのだ。見ていたのは仮面だけ。今更のように気付く。
あのイカレた格好をした男は、良く知りもしない婚約者の、居もしない仇を追いかける自分を嘲笑っていたのだろう。
「……道化は私の方だわ」
それでも降りる気は無かった。
幕は自分で引かねばならない。利用されていることは知っているが、これは自分の意思だ。
左の脇、僅かに膨らんだそこに上着の上からそっと手で触れる。ディスペアで手渡され、生まれて初めて使った拳銃。
グリップはすっかり手に馴染み、
本当ならこの手が掴んでいた筈のものを思うと、それが少し悲しかった。
知らない男が、彼の声で自分の名前を呼ぶ。
照準をぴたりとその額に合わせ、一瞬の躊躇の後、引き金を引いた。反動があって、それで全てが終わった事を知る。
青空の下、遅れて耳に届いた音は嫌に軽かった。