買出しから戻ってきた片割れが鼻唄を歌いながら戦利品をテーブルに並べていくのを、ソファに凭れて眺めていた。
日用品や食料品に混ざって、嗜好品がいくつか。荷物の影にプリンの容器が二つ見えた。また余計なものを。
さして腹の足しにもならないのに、外遊中に食べて美味しかった、または店先で変わったものを見つけた、と何だかよく分からないものを
あれやこれやと買ってくる。無駄遣いを咎めたところで、これは聞きはしないが。先日など、練れば練るほど色が変わるという菓子を買ってきていた。だから何だと言うのだ。理解に苦しむ。
まあ、それは別にいい。高い場所でひょこひょこと揺れるそれに、眉を顰めた。
視線に気付いた相手が振り向き、遅れて銀の束が弧を描く。こちらの怪訝な顔に、ああ、これ?と笑みを浮かべると、くるりと回って見せた。
いつもはちゃんと梳いているのか甚だ怪しい銀髪は、今は高い位置で丁寧に一つに纏められている。
束の根元には、一体どこから引っ張り出して来たのか、見覚えの無い質素な髪留め。煩くない程度に付いた小さな飾りが、控えめに揺れた。
「用があってイタ飯屋に行ったら、捕まっちゃってさ。流石にツインテールは勘弁して貰ったよ」
任務が無くて暇を持て余していた女性メンバーに、玩具にされたらしい。髪留めはあれの持ち物なのだろう。身なりに煩いだけあって、趣味は悪くない。
露わになった首筋が落ち着かないのか、掌で隠すようにすると苦笑いした。
似たような格好をしていても、髪の色も、目の色も、纏う雰囲気も違う。普段は意識することも無い。しかし――
「こうしていると、僕ら、本当に鏡みたいだね」
覆い被さるようにして、紅い目が覗き込んでくる。影になっているせいだろうか、それは昏く澱み、どこまでも深く。
どちらが表で、どちらが裏なのか。
底の見えない瞳に映った自分の姿に、足元が揺らぐような奇妙な感覚を覚えた。片割れはこちらの肩に垂れた金髪に指を絡めて弄び、軽く引くと、
鼻先が触れるか触れないかの所まで顔を寄せてくる。
「何てね」
囁き、悪戯っぽく笑った。その顔からは、先程までの陰は跡形も無く消え失せ、こちらの反応を楽しむような色が浮かんでいる。
――面白くない。体を離し、片付けに戻ろうとする相手の腕を掴むと、引き寄せた。抵抗もなく、膝の上に腰掛ける形で腕の中に納まる。
「プリンが温くなるけど」
相手をそのままソファにうつ伏せになるよう押し倒し、上から圧し掛かった。
「後にしろ」
項に唇を這わせて強く吸う。普段日に当らない場所に赤を散らす度、片割れは小さく体を震わせ、吐息を漏らした。
結われた髪に指を通し、髪留めを外す。束ねられていた銀糸は支えを失い、あるものは流れるように、またあるものは跳ねるようにして、思い思いの方向へと広がっていった。
「気に入らなかった?」
「気に入らんな」
髪留めをテーブルの上に放る。
「自分とやってるみたいだから?」
「お前には似合わん」
相手の揶揄かうような声音に、ふんと鼻を鳴らす。同じである必要など、もうどこにもない。それでも片割れは、一つで在ることを望んでいるようだったが。
「う……、ぁ……」
法衣の合わせ目から手を滑り込ませ、汗で湿った肌を撫で回す。下穿きの中で立ち上がりかけた彼自身を握り込み、擦り上げる。先走りで濡れた指を後ろに押し当てれば、快楽を教え込んだ体は素直に反応し、自ら腰を上げてその先を強請った。
大人しく腕の中に納まった片割れの頭を抱えるようにして、抱き直す。
髪を梳くように撫でてやると、小さく身動ぎした。
テーブルの上に転がった髪留めが目に入って、思わず渋面になる。
「……あまり寄り道はするな」
苛立ちを押さえ、やっとそれだけを吐き出す。
「予定より遅くなったのは悪かったよ。でも、暇なら君も来ればよかったのに。そしたら買い物もすぐに終わるし」
次は一緒に行こう、そう言ってこちらの体に腕を回すと、胸に顔を埋めてきた。
外出の疲れもあったのだろう、欠伸をした後、暫くもぞもぞとしていたが、程なくして穏やかな寝息が聞こえてくる。
日はすっかり傾き、沈みかけた夕日が空の際を橙に染めていた。相手を起こさないよう静かに立ち上がると、カーテンに手を掛ける。
「……う」
微かに呻く声に振り返るが、起きる様子は無い。溜息を一つ吐く。ガラス越しに外を眺めれば、暗く沈み始めた街並みと、窓に映りこむ自分の姿。彼と同じ。鏡の向こう側。
時折片割れが見せる陰の部分、あれは自分の姿でもある。それは奥底に刺さり、抜けることも無く。
彼がそうであるように、自分も未だ黄昏の中にいるのだ。
窓に映った姿を忌々しげに睨みつけると、自分達の領域から暗がりを締め出すようにカーテンを閉めた。