「ほれにひてもさあ」
「食うか喋るか、どっちかにしろ」
残り物で作った炒飯を頬張ったまま喋ろうとする片割れを咎める。慌てて口の中のものを飲み込むと、いい?という風にこちらを見た。
目線で先を促す。
「君が迎えに来てくれるとは思わなかったよ」
ついさっきまで家出をしていた相手は、半泣きで飛び出て行ったことなどすっかり忘れてしまったようだった。
これが一方的に騒いでいただけとはいえ、喧嘩の後とは思えないほどケロリとしている。
炒飯の残りを一気にかき込むと、空の器を差し出してお代わりを要求してきた。
昼から何も食べていないのだから仕方ないといえば仕方ないが、その現金な態度に呆れてしまう。
「もしかして寂しくなった?」
こちらを覗きこむようにして、揶揄かうような笑みを浮かべる。ソファがぎし、と鳴った。
「馬鹿を言え」
ふん、と鼻を鳴らす。
「偶々通りかかっただけだ」
そう、偶々。読書にも飽きたところで、気分転換のつもりで偶々足を向けた先で、偶々夕食時になっても帰ってこない弟を見つけた。それだけだ。
そして、何故だかそこにいるという妙な確信もあった。
引き寄せられるように降りたシップ乗り場の長椅子に、その姿を見つけて安堵したが、てっきり一人でしょげているかと思えば、どこの馬の骨とも知れない奴と楽しげにしているものだから面白くない。
こちらの姿を認めて駆け寄ってくる片割れの腕を乱暴に掴むと、引き摺るようにしてシップに押し込んだ。
どこかで見たような頭はぽかんとしていたようだったが、知ったことではない。思い出して、眉間に皺を寄せる。
「僕は寂しかった」
片割れはぽつりと呟くと、空の器にスプーンを放り入れた。こちらに寄り掛かり、肩に頬を押し付けてくる。慣れ親しんだ重みと体温。
「その割りに、随分と楽しそうだったがな」
不機嫌さを滲ませつつ、その背中に腕を回して抱きしめれば、しがみ付くように法衣を掴んでくる。
「僕の帰る場所はここだよ」
どこに行っても。確認するような声音に、軽く背中を叩いてやる。
暫くそうしていると漸く安心したのか、溜息を一つ吐いた後、ゆっくりと体を離して顔を上げ、照れ臭そうに笑った。
「ただいま」
「そういえば、何でわざわざシップに乗ってきたの? 君リージョン移動持ってなかったっけ」
ソファに横たわってこちらの膝に頭を預けた片割れが、ふと思い出したように聞いてくる。
「……そうだったな」
ポケットの中身を今更思い出し、そこに触れた。混沌を渡る便利な道具なのだが、随分と使っていないような気がする。
同じものを持っていた筈の相手は、とある事情でこれを紛失してしており、移動には当然シップを利用していた。
それに倣うというわけではないが、二人で出掛ける時は相手がシップにさっさと乗り込むものだから、すっかりそれに慣れてしまっていたようだ。
「運動だ」
あながち間違いでもない。
「ふーん。使わないんだったら僕に頂戴」
「やらん」
ポケットに潜り込んできた手を、ぴしりと叩く。
「ケチ」
慣れたといえば、これもだ。何かと膝の上を占有しようとする片割れと、それを許容する自分。
膝の上の銀髪を漉くように撫でれば、擽ったそうに身動ぎした。
「そうだ、今度一緒に家出しようよ」
ごろりと寝返りを打って、紅い瞳が見上げてくる。
「……それは家出とは言わんだろう」
「じゃあ、一緒にどこかに出掛けよう」
「気が向いたらな」
溜息の後に、たまにはそっちから誘ってくれてもいいんじゃないの、とぶちぶち言うのが聞こえた。
結局、家出の原因は何だったのだろうか。思い当たる節もなく、少々拗ねたような片割れの頭を撫で付けて、首を傾げた。