憐れみでも罪悪感でも何でも良かった。とにかく、空虚でがらんどうな自分を埋めてくれるのなら。

 吐き出すように言葉を紡ぐ。凭れ掛かると、相手の体が強張ったのが分かった。当然だろう。こんなのはまともじゃない。自嘲する。
自分を側に置いておく、それだけでも傷口を抉り続けるようなものだ。彼が断れば、冗談だと言って済ませるつもりだった。 それで少し笑って、何事もなかったように振舞えばいい。今までそうやって生きてきたはずだ。これがどちらの記憶なのか分からないが。息苦しさに、思わず目を閉じる。
そんなに酷い顔をしていたのだろうか、予想に反してその腕は体に回され、ぎこちなく抱き寄せられた。 与えられた体温にしがみつき、消えかけた輪郭を取り戻す。ようやく自分を思い出して、深く溜息を吐く。だが、これでは足りない。 ほんの少し与えられたことで、飢餓感が一層強くなる。
相手の首に腕を回し、ぐいと引き倒した。圧し掛かる格好になった片割れは、こちらの真意を計り兼ねているのだろう、黙って見下ろしている。
抵抗しないなら、そこに付け込むだけだ。 歪な笑みを浮かべて、囁く。
「慰めてよ」
もう後には引けなかった。

世間では睦み合う男女のする行為だが、自分達のそれには甘さなどなかった。
強引に相手を勃たせて、十分慣らさぬまま繋がる。体を引き裂くような痛みと、割り込んでくる異物感。嫌悪感に吐き気すら覚えた。片割れは何度も止めようとしたが、許さなかった。どこまでも自分本位。 そんな自分に戸惑いながらも、痛みを和らげようとするかのように髪を撫で、口付けを落としてくる。しかし、それすらも邪魔だった。苦痛が続く間は何も考えなくて済む。 快楽には程遠く、それでも締め付けた相手の熱を注がれれば、心が満たされたように錯覚した。例え、後に虚しさしか残らないとしても。何も見たくはなかった。その背に爪を立てて、目を閉じる。
ことを終えた後は、気を失うように眠りに落ちた。

「何を考えている」
「……っ、君のこと」
急に強く突き上げられて、引き戻される。
「少し、思い出していただけだよ」
上の空だったのは悪かったけど、ちょっと乱暴なんじゃないの、と軽く睨んでみせるが、額に労わるように口付けられ、相好を崩す。 片割れの両手に、それぞれ自分の指を絡めて握り締める。
彼は後悔していないのだろうか。誘い込んだのは自分。逃げられないようにしたのも。相手が思い通りに堕ちてきたのに歓喜したのも確かで。 それを確かめるのが、今は怖い。
欲しいのはただ一つ。
「僕には、君だけだ」