パラパラとページを捲って、元の山に戻す。全く何が良いんだか。溜息を吐く。
ソファに深く腰掛け、目の前で片割れが溜まりに溜まった雑誌の束を紐で括っていくのを眺める。
邪魔だからさっさと捨てろと言ったところ、それに執着があるわけでもなく、あっさりと片付け始めた。
「家に帰ったらエロ本が積んでありました、っていうのをまさか自分が体験するとは思わなかったよ」
悪いことをしている訳でもないのに、居た堪れない気分になるね。独りごちる。
持って帰ると周りが煩いからと、あれに押し付けられたものを、捨て場所に困ってベッドの下に詰め込んでいたらしい。
外遊中もこの手のことはあれこれと吹き込まれてはいたが、自分と体を重ねるうちに気になるようになって、人が居ない間に「学習」していたのだとか。
「どうせなら、お互いに気持ち良い方がいいと思って、さ」
語尾に力を入れて、一気に縛り上げる。
三つできた束を前に軽く手を打って埃を払うと、勢い良く隣に腰を下ろしてきた。安いスプリングが悲鳴を上げて、体が跳ねる。
振動が治まったところで、紅い瞳がこちらを覗き込んできた。
「……やっぱり女の子の方が良かった?」
声音が微妙に変わったのに気付く。瞳の奥で微かに揺れる光。
「お前こそ、こんなものを隠して、抱く方が良かったんじゃないのか」
垂れ下がる銀の束を指に絡めて、緩く引く。相手は一瞬きょとんとした後、淡い笑みを浮かべた。
「そっちがいいなら、いつでも変わるけど」
質問の意図を誤解したふりをして、圧し掛かってくる。
これは悦ければどちらでも構わない、と言って憚らないが。
「お前はこっちだ」
見下ろしてくる片割れに手を伸ばし、引き寄せる。
わざとらしく不満げな顔をして見せるが、抵抗はない。首筋に押し付けてきた頭を、漉くように撫でてやる。
「君にしか試したことはないよ」
ああいうことは。ぽつりと呟く。
「……当たり前だ」
試されても困る。これのあんな姿を見るのは自分だけでいい。本の中身を思い出して顔を顰めた。

「ところでさ、君、縛るのと縛られるのどっちがいい?」
だから、どうしてお前はそうなんだ。
ひょこっと顔を上げて発せられた問いに、酷い眩暈を覚える。
緊縛とか目隠しとか載っててさ、と期待に満ちた目で本の内容を語る片割れに、こいつを絶対に野放しにするまいと固く心に誓った。