「悦く、なかった?」
ソファに座った片割れが、教師に叱られた生徒のように、恐る恐るこちらを見上げてくる。若干ピントのずれた心配をしているようだが。
自分は、そもそも怒っているわけではない。ちらりとそれに視線をやり、こめかみに手を当てて深々と溜息を吐く。
テーブルの上には、わざとらしい煽りが表紙を飾る雑誌の束。いわゆる風俗雑誌というやつだ。
分かりやすくベッドの下に詰め込んであったのを見つけた。
本人は貰ったといっていたが、こういうくだらないものを押し付けてくる人物といえば、あれくらいだろう。
以前、本屋でこの手の本を無意味だと言ったところ、呆れと哀れみを含んだ目で見られた。「お前、何が楽しくて生きてるんだ」とまで。
本当にくだらない。
逆に、割と何にでも興味を示す片割れは、格好の玩具なのだろう。何も知らないと思って、嬉々として、あることないこと吹き込んでいく様子が目に浮かぶ。
これは、それで覚えたことを実践していたらしい。勉強熱心なことだ。
通りで妙なことに詳しいわけだ、と得心がいく。聞きかじりの知識だけで、よくもまあ、あれだけ思い切ったことを、とも。
慣れてるし、何ともないという顔をしておいて、いざ初めて事に及んだときは自分でも驚いたに違いない。
目が合うと、バツの悪そうな顔をする。
「最初は、その、何でもいいやって、思ってたんだけど……」
当初の投げやりな行為を思い出しでもしたのか、言いよどむ。
お互い慣れないうちは、本人は痛みに耐えるので精一杯だったはずだ。
今でも強引なところはあるものの、他人のことを考えるようになったのは、進歩と言えるだろう。
こちらを窺うように見て、目を伏せる。
「僕には何もないし、こういうやり方しか知らないから」
項垂れる片割れの隣に、腰を下ろす。
「分かっている。だが、無茶はするな」
不器用なやつ。銀色の頭を引き寄せて、額に口付けると、はにかんだ笑みを浮かべた。力を抜いて、肩に頭を預けてくる。
この重みは悪くはない。
据わりの良い場所を求めて、もぞもぞと動く体に腕を回して、引き寄せる。
「好きだよ」
耳元で囁かれた。
軽く驚いて、「何だ」と聞き返すが、肩口に顔を埋めたままうんともすんとも言わない。
ただ真っ赤に染まった耳介が雄弁に物語っていた。