気に入らないことばかりだった。
常に酒の入っている男に頭をぐりぐりと乱暴に撫でられて、迷惑半分嬉しさ半分といった表情を浮かべる片割れも、 それを見て苦り切った顔をする自分を、ニヤニヤと笑みを浮かべて面白そうに眺めているジャケットの男も。
世間は思ったよりも狭い。こうして買い物にでも出掛ければ、知り合いに出会うことも多い。
かつての目的が同じだったこともあり、外遊中の行動範囲と交友関係は、ほぼ被っていた。
全く知らない相手でもないし、その行動に含みがあるわけでもない。単なる世間話と軽いスキンシップ。友好的な態度を取るのだって、その方が都合がいいからだ。
自分の知らない時間があるのも当然分かっている。今だって、一緒に暮らしているとはいえ、お互い一人で出掛けることの方が多い。
出先のことは、訊いたり訊かれたりすることがなければ、特に口にすることもない。
「何、取られちゃったみたいで寂しい?」
分かっている、分かっていはいるが。
「お前さんも、ナデナデして欲しいのか」
「いらん」
赤ら顔の男が伸ばしてきた手を、ぴしりと払った。

 あからさまに機嫌の悪い顔をして、ソファに座ったまま微動だにしない片割れに肩を竦める。帰ってきてからずっとこの調子だ。
何か飲むかと聞いても口を開かず、ただ不愉快だと言うことを全身で主張するだけだった。
気分屋なのはお互い様だと、さして気にすることもなく、テーブルの上に乗せておいた戦利品を片付け始める。
なるべく物は増やさないようにしてはいるが、暮らしているうちに、あれやこれやと必要なものも出てくる。
「ちょっとこれ運ぶの、手伝ってよ」
さすがに、黙って見ていられるのに腹が立ってきて、振り返って声を掛ける。が、返事はない。
やれやれと嘆息して、再び荷物を持ち上げようとしたところで、後ろから抱きすくめられた。首筋に顔を埋め、髪越しに唇を這わせてくる。
「どうしたの、急に盛って」
「……」
半ば呆れながら、相手の様子を窺おうとするが、顔はぴったりと伏せられていて見えない。
「するんなら、後にしてよ」
忙しいんだからさ。文句を言うが、意に介する様子もない。体に回された手が、上着の合わせ目から滑り込んでくる。
「あのさ」
今度は、もう片方の手が下穿きに潜り込んできて、下腹部を弄り始めた。やめさせようと手を掛けるが、体はこの先を期待するようにじわじわと熱を持ち始める。
彼は自分のことをよく知っているのだ。這い回る手に与えられる刺激に、思わず吐息を漏らした。

 すぐに耐え切れなくなって、テーブルに腕を預けて膝をつく。執拗に嬲られたそこは立ち上がって溢れさせているが、まだそれには足りない。
「あ、あ……もう、やだ……」
早く解放して欲しい、と懇願してくる。肌を撫で回していた手が、肌蹴られて露になった胸の突起に触れた。きゅうと摘むと、びくりと体を震わせる。
彼自身を強く擦り上げて追い上げると、足をガクガクと震わせて、手の中に吐き出した。出したもので濡れた指を後ろに宛がい、塗りこめるようにして解していく。
指を差し込んで中をかき回すと、与えられる快楽を微塵も逃がさぬよう、咥え込んで締め付けてくる。
「は、あっ……」
指を引き抜くとこちらを振り返り、熱に浮かされたように名前を呼ぶ。お願い、だから。
腰を高く上げさせ、誘うようにひくつくそこに、熱の塊を押し付けた。
「う……」
押し広げて、埋めていく。全部入ったところで、圧迫感に呻く相手を、些か乱暴に突いた。
「ひぁっ、あっ、あっ、は、ああっ……!」
揺さぶられて、小刻みに喘ぐ。テーブルの上で掴まるものを求めて爪を立てる手に、自分の手を重ねる。僅か緩んだ指の隙間に絡めて握り締めた。
これは自分のだ。
歓喜の悲鳴を上げる片割れに自身もまた煽られ、衝動に任せて強く、深く抉った。

 片付けは終わっていない。それどころかテーブルの上の荷物は盛大にひっくり返り、床に散乱している。割れるようなものがなかったのは、不幸中の幸いか。
中途半端に脱がされた上、ベタベタになった法衣が纏わり付いて、酷く気持ちが悪かった。
この状態を早く何とかしたかったが、指一本動かすのも億劫で、床に座り込んだままぐったりとソファに寄りかかる。
「申し開きがあるなら聞くけど」
「それは災難だったな」
同じように隣でソファに背中を預けている片割れに、この惨状の説明を求めるが、しれっとした顔で返された。
口角が若干上がっているのを見るに、何だかよく分からないが、機嫌は直ったらしい。人のことを我侭だのなんだの言う癖に、自分も相当だよね。胸中で毒づく。
「片付けるの、ちゃんと手伝ってよね。見てないでさ」
重い体を立たせようと腰を浮かせるが、力が入らない。さっさと立ち上がった片割れが、いつもの済ました顔で上から見下ろしてくる。
「だらしないな」
「……誰のせいだと」
半眼になって軽く睨みつけると、低く笑って、掴まれと手を伸ばしてくる。
相手に手を引かれてやっとのことで立ち上がり、とりあえずはこの格好をどうにかしようと、二人連れ立って浴室へ向かった。