体は石でも乗せたように重く、背中はじっとりと汗で湿っていたが、寝返りを打つのも億劫だった。
ベッドの上で腫れぼったい目を瞬かせる。見上げる天井がやけに高く見えた。
ずっと神経を尖らさせて生きてきたのだ、ここにきて緊張の糸が切れたのだろう。術の取得と研鑽が全てで、それ以外に意味はない。そう教えられてきた。
終わってみれば、自分に残されたのはその為に切り捨てた筈のものだった、というのは一体何の冗談だろうか。
戸の向こうから規則正しい音が聞こえ、香ばしい匂いが微かに漂ってくる。
頭がぼんやりとして思考が纏まらない。記憶が散漫に浮かんでは泡のように弾けて消えた。
本当に調子が狂う。
目を閉じるが、今日は一日中横になっているのだ、これ以上は眠れそうになかった。
暗い部屋に光が差して、片割れがひょこっと顔を覗かせる。
「気分はどう」
「最悪だ」
電気を点けると、手に盆を持って部屋に入ってくる。足で戸を開けるな。
「おじや出来たけど。少しでも胃に入れておいた方がいいよ」
のろのろと上体を起こすと、膝の上に盆に載せられた片手鍋が置かれた。残り物なのだろう、大雑把に切られた野菜が米の中で声高に存在を主張している。
「男の料理って感じだな……」
「今度食器買ってこないとね」
はい、と大き目の計量スプーンが渡される。
「レンゲなんて気の利いたものは、うちにはないよ」
「計量スプーンがあるほうがおかしいだろう」
半眼になって文句を言いながら受け取り、鍋の中身を少し掬って口に運ぶ。
「この間ずぶ濡れになったまま、宿まで歩いたのがまずかったかな」
そう言いながら枕元に腰掛けると、足をぶらつかせた。同じような状態だった片割れは、風邪一つ引かずピンピンしている。
「お前に振り回されて疲れているだけだ」
癪に障って悪態をつく。
「それでも、何だかんだ言いながら付き合ってくれるよね」
軽く凭れ掛かってくる。重い、と呻くが相手は笑うだけだった。分かってると言わんばかりの態度に、負けたような気さえしてくる。
顔が熱いのは熱があるせいだ、そう言い聞かせる。
「君で、良かった」
ぽつりと呟く相手に鍋を差し出すと、少し驚いた顔をした。
「少なくとも退屈はしないからな」
空の鍋の中に計量スプーンを放り込む。底に当って乾いた音を立てた。
自分勝手で、我侭で、理不尽な。
「今度はどこに行こうか。沼地とか」
「……濡れない所で頼む」