水妖が住むという湖の水面は、陽光を受けて眩しく光り輝いている。
美しい町並みと豊富な種類の魚介類が取れることで観光地として有名であるが、シップ乗り場から離れてしまえば、人影もまばらで地元の人間しか通りかからない。
喧騒とは縁のない空間はありがたいが、夏の日差しにじわじわと体力を奪われ、日陰にぐったりと座り込む。傍らには乱雑に放り出された毛皮とブーツが二人分。
もう一人の持ち主は逆に元気なようで、下を膝までたくし上げて浅瀬に入り、全力で水遊びに興じている。
やれ変わった形の貝があった、やれ水草を拾ったといっては見せに来るので、積み上げていくうちに、目の前には小さな山ができていた。
「外遊で何度も来てるんだ。湖なんか今更珍しくもないだろう」
やや疲れたような声が溜息と共に漏れた。
「分かってないなあ」
影が差して、上からぽたぽたと水滴が落ちてくる。
「君と一緒だから楽しいんじゃないか」
とすっと軽い音を立てて、山に戦利品が追加される。空になった酒瓶。
「ゴミじゃないか」
半眼で呟く。
「せっかくここまで来たんだからさ、付き合ってよ」
「お、おい」
両腕を引っ張られて無理矢理立たされると、そのままぐいぐいと連行される。膝まで水に浸かったところで、やっと腕を開放された。
重くなった法衣の感触にげんなりする。
「ね、気持ちいいだろ」
顔を上げると、にやりと笑う片割れの顔。しゃがんだと思ったら勢い良く水を掛けられた。
止めろと言う前に、掛け続けられる水に視界を塞がれ、よろけた所で砂に足を取られて尻餅をつく。
「……」
上から下までぐっしょりと濡れて呆然としている姿を見て、相手は一瞬目を丸くし、体をくの字に曲げると笑い出した。
そのうち笑い過ぎて呼吸困難になったのか、ヒイヒイと声を上げて涙を流し、終いにはむせ始める。そうか、そんなにおかしいか。
水中に座り込んだまま、油断している相手に足払いを掛ける。予想外の反撃にあっさりとひっくり返ると、派手な水飛沫を上げて水没した。

「げっほ!げほ!鼻に入った……」
「どうだ、気持ちよかったか」
「うう、酷い」
「どっちがだ」
やっと上体を起こすと、先程とは別の意味で涙目になっていた。髪は顔にべったりと張り付き、水をたっぷり吸った法衣が体に纏わりつく。
暫く睨み合っていたが、お互いの姿を見ているうちにおかしくなって、どちらからともなく笑い出した。
「酷い格好」
「お前もな」
そろそろ行くか、と立ち上がって手を引いてやると、片割れは名残惜しそうに水中から腰を上げた。重くなった法衣の裾を絞って、水から上がる。
「そんなにここが気に入ったのなら、また来ればいい」
この格好は御免だが。そう言うと曖昧な笑みが返ってきた。
「そうだね」

「君とならどこだって構わないんだよ」
そっと囁かれた声は耳に届くことはなく、波の音に掻き消された。