「だから、そうやって乗ってくるのはやめろと」
「こうでもしないと、その気になってくれないじゃないか」
家事やら買出しやら日々の雑事を済ませ、さて買ってきた本でも読むか、とソファに座ったところでどっかりと腰を下ろされ、顔を顰めた。
こちらの都合などお構い無しなのはいつものことだ。ここが定位置だと言わんばかりの顔で居座っている。
察してくれと言われて悩むよりはいいし、要求が分かりやすいのは結構だが、どうにもこうにも――
「大体、情緒というものに欠けている」
わざとらしく渋面を作ってみせ、その気にさせたいならもう少し何とかしろ、と付け足す。
相手は一瞬きょとんとした後、暫し虚空を見上げ、視線を戻した。首を傾げる。
「しよう?」
「……」
頭が痛い。
「君って意外とロマンチストだね」
ムードとか気にするんだ。さも驚いたという風に呟く。
「お前が即物的過ぎるんだ」
相手のケロリとした態度に本を閉じて脇にやり、これ見よがしに嘆息する。
快と不快でできた世界。何故そういう行動に出るのか、本人はなるべく考えないようにしている節もあるが。
「あんまりごちゃごちゃ煩いと後ろに突っ込むよ?」
「できるものならな」
挑むように覗き込んでくる彼の顎を掴んで引き寄せ、生意気な口を塞いでやる。
「ん、ん」
舌を差し入れて歯列をなぞり、奥にある舌を絡めとって強く吸う。反射的に逃げようとする頭をもう一方の手で抱えるようにして押さえ込む。
縋る場所を求めて彷徨っていた手が背中に回され、法衣がぐいと引っ張られた。
 散々口内を蹂躙した後解放してやると、こちらにぐったりと体を預け、空気を求めて喘いだ。
呼吸が落ち着いたところで、すっかり紅潮した顔を上げ、潤んだ目で軽く睨んでくる。法衣はしっかりと掴んだまま。
「……精々背後には気をつけるんだね」
「……そうしよう」
相変わらずの減らず口に苦笑すると、相手も釣られるように笑みを零す。
仕方のないやつだ。そして放って置けない自分も。
読書は諦め、蹴飛ばされないように本を遠くへ押しやる。満足気に笑みを浮かべる彼の腰に腕を回し、抱き寄せた。