彼が強く拒絶しないことは分かっていた。自分に対して負い目を感じていることも。
気にしなくてもいいのにと思いながら、そこに付け込んだ。自分の足りない部分を埋めるために利用した。
湿った音と共に、指が抜き差しされる感覚に、無意識に腰を揺らす。お互いの吐息がやけに大きく聞こえる。
丁寧な愛撫にじれったさを覚えて、女の子じゃないんだから、と半ば呆れ気味に言うと、怪我をされても困る、と大真面目な顔で返された。
組み敷かれた体勢に、妙な居心地の悪さを感じるが、与え続けられる感覚から逃げ場もなく身を捩る。
(こういうのは苦手だな……)
そんなに優しく扱わなくても、簡単に壊れはしないのに。心とは裏腹に体は正直に反応を返し、堪らず吐息を漏らす。
喉元に口付けられ、強く吸われる。喉仏に軽く歯を立てられて首を竦めた。
彼の手はこんなに熱かっただろうか。触れられた場所から、熱が全身に広がっていく。毒に侵されるように。
身の内に燻る熱に苛まれ、仏頂面で見下ろしてくる相手の首に腕を回した。
「も、お願……」
震える声で哀願する。
そんな自分に、おねだりも随分上手くなったものだ、と頭の片隅で自嘲する。
指が引き抜かれて、押し当てられた熱の塊に一瞬身を硬くした。力を抜いたところで貫かれ、喘ぎとも悲鳴ともつかない声を上げる。
痛みと快感が押し寄せ、深く、もっと深くとしがみつく。優しくなんてしなくていい。押さえ付けて、暴き立てて、ズタズタにすればいい。
体の芯は溶けるほど熱いのに、心は酷く冷えていた。
(こんなに近いのに、どうして遠くに感じるんだろう)
視界が涙で歪む。いつの間にか泣いていたらしい。これは自分が望んだことだ。大した事ではないと思っていたのに。
欲しいものを手に入れるのに、こんなやり方しか知らない自分に嫌気が差す。
その様子を痛みが辛いせいだと思ったのか、労わるような口付けを目尻に落とされる。
微笑むつもりだったが、上手くいかなかった。緩く首を振って、大丈夫とだけ答える。
それをどう受け取ったのか、回した両手を外され、やんわりとシーツに押し付けられた。
突き上げられて、追い上げられる。内側から翻弄され、口から漏れるのは喘ぎを通り越して啜り泣きに近かった。
締め付けると、名前を呼ばれたのだろうか、よく聞こえなかった。息を詰めるような気配の後、熱い迸りを中に感じて頭が真っ白になる。
そして望み通り、何もかも分からなくなった。
包まれたような感覚に、ふと目を覚ます。
探した相手の姿を隣に認めて、安堵の溜息を吐いた。自分を緩く腕で囲うようにして、静かな寝息を立てている。
寝顔を見ているうちに不意に泣き出しそうになって、慌てて彼の胸に顔を押し付けると、きつく目を閉じた。