ニノがさんをすきなのだという。
3人で帰るのがふつうになってきたころ、さんがトイレに行っている間にニノがおれに言った。不思議な話ではないか、と思った。さんから聞くニノは、かなり彼女を好ましく思っているふうだったから。おれはへぇ、と思ったけど、がんばれよ、と言った。どこか「へぇ」で「けど」な気持ちがかすかにあったけど、それがなんなのかおれはわからなかったし、単純に昔からいっしょにいて、年下ながらおれの面倒をみてくれるニノに彼女ができるかもしれないということ、それもさんみたいないい子が、というのはめでたいことだと思ったのだ。
じゃあおれ、協力するからさ。うん、帰りとか、ふたりで帰ったらいいんじゃない?不審に思われないように、ニノがさん誘導してあげてさ。おれが提案すると、ニノはうつむいてうふふ、と言いおれを見て、ありがとうございます、大野さん、とにこりとした。





なのに、なぜおれはわざわざ美術室に場所を移して寝ているのか。別れるのは教室でいいはずなのに。
それはニノのここのところのさんへのスキンシップの多さにあった。
おれでもわかるほどのそれを彼女はなぜ気づかないのかわかないが、そういうわけでありまして。つまりおれはさんがすきだったのだと気づいてしまったのである。


まぁすきな女の子がいくらニノとはいえ男にべたべたされているのを快く思えるはずがない。しかしやっぱりニノだし、おれは応援すると公言した手前やめろとか言える立場ではない。


とった手段はこうして、はじめからふたりを見ないようにすることであった。邪魔しないようにしたんだ、と言えばそれはそのような行動に思えるので、ニノに聞かれたらそう言おうと思う。
ニノが本気を出してから一週間ほど経つことだし、そろそろさんが気づいてもおかしくはないと思う。かなり鈍いけど、ニノのことだから新たな案を講じてきているだろう。


こんどメールしてきくかな。
うまくいってたら、おれは諦められる気がする。そしてもといた場所に戻って、さんのクラスメイトでいられると思う。おれを気にかけてくれる面倒見のいいさんと、教室でひとり眠るおれと。そんで、たぶんないとは思うけど、さんがふたりのことで悩んだときに、支えてあげられるひとでいたい。そのためには、寝起きのささやかなお喋りの時間を取り戻さなくてはいけない。
ニノの彼女となったきみになら、おれの場所変えしていた理由を、さっき思いついたものを言っても納得してくれるだろうから、まずはそう切り出そうと思う。


かなわない想いはかなしい。
でも、おれの、大切なふたりのともだちを、なくすほうが、きっとかなしいのだ。


おれのこれは、気づかなかったことにすればいいのだから。











ぼくの想いが
にじみだすまえに







(SUGAR舞台裏・大野さんの場合/ 121227 あい子)